いざ米国−11
まず1発、朝祇は角端に向けて発砲した。乾いたパン、という音とともに角端は一瞬で動き、大量の水を 空中に集めた。
そこから鞭のように水の細長い塊が伸びてきて、思いきりしなりながらこちらへ向かってくる。しかし、当たる前に聳弧が地面からたくさんの木を生やし、それを受け止めて水を吸い取る。
その木々を回り込み、朝祇は再び銃弾を放った。やはり角端は素早く避け、弾は地面に当たる。
『遅い…あまりにも遅いですよ』
「そりゃすみませんね」
すると、地面から突然水柱が吹き出した。間欠泉のようなそれは、飲まれれば一瞬で意識を持っていかれるだろう。
それに対し、聳弧は朝祇の足元に枝を何重にも重ねて生やし、床のようにした。水柱はそれに阻まれて出てこれない。
『小賢しい…!』
苛立った角端は、今度はその枝を突き破る非常に細い水柱を吹き上がらせた。それはウォーターカッターのようなもので、朝祇の左腕を掠めて血が滴った。鉄をも切断できる水圧という力は、人体も簡単に貫けるだろう。
朝祇は走って移動するなりまた1発放った。角端は特に動じもせず避け、やはり地面に当たる。
直後、足元の地面が振動したのを感じた。 本能的にまずいと判断し、聳弧を呼ぶ。
「っ、聳弧!」
『はいよ〜』
聳弧はすぐにやって来て、朝祇はその上に飛び乗る。その次の瞬間、何十本もの鋭い水柱が地中から突き出した。
空中に出た朝祇は、角端に向けて連続で発砲する。2発とも外し、角端は少し呆れたような声を出した。
『いくらなんでも下手すぎではありませんか?』
「悪かったな!」
『…大丈夫?』
聳弧にすら心配されてしまったが、心配はいらない。
朝祇は軽くその首筋を撫でてから、地面に飛び降りる。大した高さでもなく、普通に着地した。
そして、付近にいた角端の右側に発砲する。角端は左に避け、嘲笑したように地面を蹴った。
『何をしようとしていたかくらい分かっています。その銃によって魔法円を構築しようとしていたのでしょう?』
「…さすが智の徳を司る北の角端。その通りだよ」
実は、はずしたように見せて4発の弾は敢えて地面に撃ち込んでいた。これは魔法弾と呼ばれるもので、この弾は着弾すると魔法円を構築する。
正五角形の形で今回は撃たないといけない。
『しかしあなたは最初に1発を外し、最後の1発も外しました。これにより4つしか魔法円はありません』
そう、最後の1発は魔法円を作るために使わなかったため、五角形はできていない。これでは魔法円は発動しないのである。―――普通なら。
「どうだろうね?」
『…っ、まさか!』
そこで朝祇は銃を足元に転がし、握っていた右手を開いた。そこには、最後の魔法円が墨で描かれていた。そして、朝祇が立っているのはちょうど五角形の空白の角だった。
『…それがどうなるか、わかっているのですか』
「もちろん。場合によっては死ぬね」
確かに魔法円は成立する。しかし、その一角は朝祇自身であるため、魔法円発動とともに朝祇の体は触媒となる。場合によっては、体内のエネルギーをすべて魔法円に吸いとられ死んでしまう。
「発動する条件は3つ。角端が動いたとき、俺が意図したとき、そして3分が経ったとき」
『な…っ!?』
「主様っ、それは…!」
人型になった聳弧も焦っている。それもそうだ、これは角端に一方的に有利だ。なぜなら、角端は魔法円が発動したところで虚無界に帰ればいいだけなので、朝祇がただ死ぬだけだ。
しかしこれは、相手が麒麟の種族だからこそ、半分脅しになり得る。麒麟は概して臆病で、殺生を極端に怖れるからだ。
「角端が俺と仲良くしてくれるなら魔法円は解くよ」
これはつまり、朝祇の命を角端に委ねたことを意味する。殺生を怖れる麒麟の一種である角端は、要求を飲まなければ朝祇を殺したことになってしまうのである。
『…っ、分かりました!あなたの使役を拝することを誓います!』
そしてついに、角端が折れた。朝祇が動く前に、聳弧と角端が揃って魔法円を枝と水柱で破壊した。
朝祇は急いで角端の元へ駆け寄ると、その首もとに抱きつくように撫でた。
「ごめん、ごめんね、角端…嫌な思いさせて、ほんとごめん」
『…なんであなたが謝ってるんですか…』
角端は少し驚いてから、呆れたようにため息をつく。ついで、光とともに人型になった。
背格好は聳弧たちと同じで、髪は漆黒でオールバックのように後ろにかきあげられている。朝祇はその首もとに抱きついているようになってしまったため離れた。
「麒麟たちが従う理由が分かりました。あなたの心は…強い強い信念によって形作られている。そして、その根底には他者を思う気持ちがあります。従わない理由がありません。ご無礼をお許しください」
「角端みたいに上級の存在だったら当たり前だよ。それに、無礼なんて気にしないで。さっきも言ったけど、仲良くなりたいんだ」
「…私で良ければ」
「君で良かったよ」
角端は綺麗に微笑んだ。そこへ、パチパチと拍手しながらライトニングがやって来る。聳弧は角端にこっそり耳打ちし、目配せしていた。
「いやぁ!あっぱれだねぇ!銃は確かに下手くそだけど、だからこそできた作戦だ」
ライトニングはそれを 気にせず、朝祇の肩をぽんと叩く。その目は相変わらず読み取れない。
「まぁ、とりあえず今日は休もうか。明日は炎駒と戦って、銃の練習もしよう」
「…よろしくお願いします」
とにもかくにも、これでようやく炎駒を残すのみとなった。