京都不浄王編/前編−3
東京駅を出発した新幹線が品川駅に着くまでの僅かな間に、 シュラから4号車の祓魔師たちへの挨拶があった。右目の増援部隊の隊長になったそうだ。
詳しい状況を知らない者たちや候補生のために、現状や不浄王についての説明もあった。やはり昨晩に勝呂たちが話していた通りで、黄龍の話とは少し違っていた。
候補生の仕事は、襲撃によって負傷した京都出張所の祓魔師たちの看護と警護の応援についての手伝いだそうだ。恐らく、雑用である。
その後シュラは就寝し、新幹線は新横浜を出てから長い走行に入る。車窓からは静岡県らしい茶畑や農園が見えた。
左側に目を向けると、燐が少し落ち込んだように京都のパンフレットの表紙を見つめている。勝呂と子猫丸はともかく、廉造は恐らく単に面倒だから関わらないようにしているだけだ。そこで可哀想だとは思わないのが廉造である。それが悪いことだとは思っていないが、ちょっと意趣返ししてやってもいいだろう。
「奥村〜、ちょっと眠すぎるから肩貸して」
「は?っておい、」
答えを聞く前に、朝祇は燐の右肩にもたれ掛かって頭を乗せた。廉造の方が身長差があって丁度良いのだが、悪くはない。
「いいっつってないんだけど?」
「プリッツやるから」
「…許す」
鞄からプリッツを取り出し、1本を燐の口にくわえさせ、残りをその膝に置いた。なにやら後ろの席から負のオーラが漂ってくるが無視だ。
「い、いいのかよ…?」
さすがに気付いた燐は、朝祇たちの関係を知っていることもあって困惑している。
「いいんだよ。てか奥村、いい匂いすんな」
ガタッ、と後ろから音がした。面白すぎて笑い出しそうだ。奥村はおろおろとしていたが、考えるのが面倒になったのか、プリッツを食べ出した。
やがて朝祇も本格的に眠くなり、意識を手放した。
***
目覚めたのは、あまり時間が経っていない頃だった。燐の話し声で意識が浮上した。
「そっ、そーなのか!?」
「一般常識よ」
どうやら出雲と話していたようで、肩から頭をあげると、「あ、わりい」と謝った。ここで謝ってしまうのが燐の優しさだと思う。
「一ノ瀬は、悪魔と人間のハーフが少なくねぇって知ってたか?」
「あー…まぁ、普通に。正十字騎士團の孤児院に悪魔とのハーフであることが原因で育児放棄された子供が入れられてたりするよ」
「そうなのか…でも、俺は…」
目を擦りながら言うと、燐はまだ釈然としていなかった。それには出雲が答える。恐らく、出雲とそういう会話をしていたのだろう。
「つまり、あんたが問題なのはサタンの息子ってことだけなのよ。騎士團だってサタンの息子が仲間に入るのが損か得か量りかねてるからあんたをまだ殺さないんじゃない。それだけのことよ」
「そうそう、俺なんてサタンの息子に料理教わって肩で寝てたんだから」
「お前はまぁ…変なやつだよな」
「なんだと」
プリッツをもさもさと食べながら適当に返す。出雲にも差し出すと、無言で取って食べた。
「…ほんと、たかがそれだけのことにバカみたいにいっちいち大騒ぎなんてしてられないわ!」
「まゆげ…!俺を励ましてくれてんのか…!」
「まゆげ!?」
ついそれを聞いて噴き出してしまった。出雲に睨まれたため燐の背後に隠れる。
「やっぱお前っていいやつだな!」
「は!?ちょっ、なんでそうなんのよ!違うわよ!てかまゆげってあだ名!?あたしは神木出雲よ!」
「ありがとな、出雲」
慌てる出雲に、しえみについで天然なところがある燐は畳み掛ける。礼を言われた出雲はさっと顔を赤らめた。
「気安く呼び捨てにしないで!!」
すると、後ろからシュラの「うるさい」という注意が飛んでくる。出雲はぐっと押さえてから、絞り出すように続けた。
「あ、あたしは…『サタンを倒す』とか、『友達』だとか!綺麗事ばっか言っていざとなったら逃げ腰の、臆病者が大っ嫌いなだけよ!」
勝呂としえみのことだろう。先程のような態度を取ったことに、サタンの息子と分かった途端に態度を変えたことをそう評したのだ。
「…黙って聞いとれば言いたい放題!誰が臆病者や!!」
「ふん、じゃあ何なのよ」
そこに、勝呂が立ち上がって怒鳴り付ける。出雲は臆することもなく鼻で笑ってみせた。いくら貸し切りとはいえここは新幹線だ、そろそろクールダウンするべきだ、と思ったときには遅すぎた。
「ゴル"ア"ッ!!!」