眩い強さ−2
あまりに眠い国語の授業が終わると体育になる。正直、このコンディションで体育などやりたくなかったし、外でサッカーをすることになっている。嫌でしかない。
しかしサボるわけにもいかず、千秋は更衣室で着替えるとふらつきながら校庭に出た。洋風の建物に囲まれた校庭は、ここが丘なこともあって風が強い。
女子が体育館でバスケをやる一方で、男子は広いこの校庭に散ってサッカーに取り組む。
柔軟などのアップを済ませると、さっそく試合形式にするためランダムでチームが組まれる。それをぼんやりとしながら聞き、指定されたコートへ向かう。
他の生徒にゼッケンを渡され緩慢に着ると、サッカー部らしい生徒が簡単に役割を振っていった。
「二宮はディフェンスな!顔色わりーから無理すんなよ」
「あ……うん、ありがとう」
気を遣わせてしまったらしい。申し訳なさそうにすると、肩を軽く叩かれた。
そしていよいよ試合が始まる。男子たちは広々ととられたコートに散っていく。申し訳ないが、サッカー部の彼も言っていたし、後方でゆっくり動かせてもらおう。
そう思い、教師のホイッスルとともにさっそくボールを激しく奪い合う様を眺めた。多くの生徒が集まるコート中央部で一際目立つ動きをしているのは、燐だ。体育は好きなのか、いつも人間離れした動きと無尽蔵な体力を見せ付けていた。とことん不思議なやつだな、と思う。
すると、ボールが急にロングシュートされ、こちらに飛んできた。中央にいた生徒たちは一目散にこちらへ駆けてくる。
さすがにここでぼう、とするのはまずいため、千秋はボールを受け止めるべく走り出した。
そして千秋が地面を跳ねたボールを受け止めてパスしようと見渡し、すぐ側にわらわらとやって来た生徒の中で同じゼッケンの者にパスをする。その蹴りをした直後だった。
全員の意識がボールとともに千秋の側を離れた瞬間、蹴りをして慣性で少し走っていた千秋の足が引っ掛けられた。
「う、わっ、!」
転ぶ。咄嗟に身を庇おうとして変な体勢になってしまったのか、激しい足首の痛みとともに地面に叩きつけられた。その間際、ほくそ笑む男子生徒が見えた。同じクラスの、アーチェリー部員だ。
あぁ、そういうことか、とすぐに諦観で落ち着いてしまうが、足の痛みが洒落にならない。思わず地面の上に倒れたまま足首を押さえた。
ホイッスルが鳴り、試合が止まる。心配する声が聞こえてきて、何人かが駆け寄ってきた。
「大丈夫か!二宮!」
教師の声に何とか頷く。すると、側にしゃがむ気配がした。
「立てるか?」
その低い声は、燐のものだ。初めての会話である。ただそんな感動より痛みが勝り、それにも頷くことしかできなかった。
燐は手をついて体を起こす千秋を軽く支え、自力で立ち上がるのを補助してくれる。
だが、教師の方を見ようと視線を上げた瞬間、くらり、と視界が暗くなった。ここにきて寝不足の眩暈が来てしまったようだ。
バランスを崩す千秋を、燐が支えてくれた。足を庇って立ちつつ、重心を燐に完全に預けている。意外と背が高く、その青い瞳を見上げる形になった。
「大丈夫、じゃねぇよな…せんせー、俺が保健室連れてくよ」
「本当か?助かる」
見かねた燐は、おもむろに千秋の膝下に右手を伸ばすと、ひょいっと千秋の体を両腕で抱き上げた。まさかのお姫様抱っこというやつだ。
「なっ……!?」
「おお、すごいな奥村。任せたぞ」
周りからも、少し楽しげな色を含めた「おお〜」という声が上がった。驚きやら痛みやら羞恥やらで、千秋はもう言葉も出ない。
ただ顔を見られたくないのと怖いのとで、燐の胸元のシャツを掴み、そこに顔を寄せた。