眩い強さ−3
やがて燐は校庭に程近い保健室にやって来た。いくつかある保健室のうちの1つである。授業中だったため、校庭の生徒以外には見られなかった。
しかも保健室に入ると、養護教諭が不在。誰も利用者もおらず、ようやく千秋は落ち着いた。
あらためて、養護教諭がおらず少し焦っている燐を、座らされたソファーから眺める。
やはり不良っぽいし言動も荒々しいのだが、その不思議な目には心配がありありと浮かんでいた。ここまで運んでくれたのもそうだ。
思っていたよりも随分、優しい奴だった。
「……ありがとう、奥村君」
「あ?いや、いいって。つかそれより足大丈夫かよ?」
「大丈夫、ではないかな」
苦笑すると、燐は「脱がすぞ」とひと言言って、床にしゃがんで千秋の靴と靴下を脱がせる。
「ちょ…っ、」
「うわっ、すげぇ腫れてんじゃん!やべえって!」
「え、ほんとだ」
突然脱がされて焦るが、燐の心配げな声と、実際に腫れ上がった足首を見てそれどころではなくなる。
「うわ…部活できないじゃん……」
「お前何部?てかわりぃ、名前聞いていいか?」
それを聞いた燐は、ばつが悪そうに見上げてくる。そういえば初めてまともに話すのだった。
「俺は二宮千秋。アーチェリー部なんだ」
「そーなのか!俺は奥村燐、部活はやってねぇんだ」
「はは、知ってるよ」
「えっ、なんで」
「ほら、奥村君不良だって有名だから」
素直に言うと、燐は呆れたように「それ本人に言うのかよ」と至極まともなことを述べる。確かにそうだ。
だが不良な燐からそんな言葉が出るとは思わず、くすくす笑ってしまった。
「なんつーか…二宮って意外と笑う奴なんだな。いつもむすってしてっから」
「そう?奥村君も意外と優しくてまともだよね」
「失礼か!」
軽い雰囲気で憤慨しながら立ち上がる燐に、また笑う。しかし、笑いながらもしっかりとその目を見た。
「でもほんと、ありがとう。マジで助かった」
「……あんさ、」
真面目に礼を言った雰囲気を感じ取った燐は、一瞬照れ臭そうにしたあと顔を曇らせる。
「さっき、お前足引っ掛けられてたよな」
「っ!そん、なこと……」
そして出てきたのは、先程のことを見られていたという事実だった。皆がボールに意識を取られていると思っていた。
咄嗟に否定したが、信憑性はないだろう。
「……言いたくねぇなら言わなくていーけどさ。その……大丈夫か?」
あまりオブラートに包むということが得意でないのだろう、とても言いづらそうにしてそんなことを問い掛けてきた。
大丈夫か、という言葉には、いじめの可能性を燐が察していることを含んでいた。
「…言いたくないとかはないけど。でも、なんで奥村君は気にすんの?俺のことなんて、面倒なだけでメリットないじゃん」
単純な疑問だった。一匹狼のような燐が、こうやって怪我以上の心配をしてくれることが解せない。
なぜ、メリットがあるわけでもない千秋にそんな心を寄せてくれるのだろうか。
「メリットって……んな理由じゃねーよ。単純に心配なだけだ」
「そんなことあるんだ……家族でもないのに」
善意だけで無償の優しさを提供するなど、家族間でもないのに起こるのか、と驚いた。普通は打算でもあると思っていた。
「お前……」
「ごめん、俺今まで人と仲良くしてきたことなくて。友達とかそういうの、欲しいって思ったこともなかったから、よく分かんないんだよね」
特につらい過去があって、なんていうわけではない。裕福で恵まれた家庭に生まれて、アーチェリーに心血を注いできた。友達関係などなくても、自分で大抵なんとかなってきたから、わざわざ喧嘩やいじめのリスクを犯して人と付き合うことを選ばなかった。ただそれだけだ。
「……じゃあ、さ。1回、俺と友達やってみね?」
「……?」
すると、燐は若干照れたようにしながら、頬を掻いて視線を逸らしてそう言った。どういうことか分からず首を傾げる。
「俺も、その……色々あって友達っつー友達がいたことねぇんだよ。だからさ、試しに、お互い友達ってもんやってみよーぜ、っつー…なんかそんな感じだ!」
「……いいかも、ものは試しだし、奥村君なら信頼できる」
「ま、マジで!?よっしゃ!」
燐の提案は面白そうだと思った。もしかしたら、試しに友達なるものをやってみたら新しい発見があるかもしれない。そう考えて、頷いた。