眩い強さ−6


先頭車両へ向かう燐を引き留めようとしたが、ふと数日前を思い出す。燐は祓魔塾に通っていると言っていた。この異常な空間は、悪魔とやらの存在でしか説明がつかない。
ということは、燐はこれを解決しに来ているということだ。邪魔をしない方がいい。

恐ろしい光景の中で取り残されるのは嫌だったが、ぐっと堪えて伸ばした手を引っ込めた。

燐は連結部に着くと、扉を開けて外に出た。今どきあり得ない、連結部が外気に晒されている昔のタイプだ。
すると外から銃声が響いてきた。うっすら怒声もする。そして、天井を足音がした。まさか走行中の車体の上にいるのか。

大丈夫だろうか、と立ち上がると、今度は3両目から誰かが入ってきた。振り返ると、着物姿の少女が何やら葉の大量についた大きな枝を抱えている。足を見ると、しっかり立っていた。


「「人!?……えっ、」」


思わず驚きの声を上げると、まったく一語一句違わずに重なった。驚いて顔を見合わせるが、少女はハッとして駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」

「大丈夫、です。あなたも祓魔師ですか……?」

「燐に会ったんだね…!はい、まだ見習いだけど……絶対助けるので、待っててください!」


勢い込んで言うものだから、とりあえず頷いた。素人がしゃしゃり出るものではない。明るい色の髪の少女は、葉を揺らして先頭車両に入っていった。揺れていた実の特徴的な見た目からして、あれは鬼灯だろう。


「……夢じゃ、ないよな……」


非現実的過ぎて呆然と呟く。すると、少女が出ていった扉から見えた先頭車両が、若干離れているのが分かった。実際、少女もぴょんとジャンプして先頭車両に向かった。だんだんと減速しているような気もして、千秋は連結部に足を引摺りながら歩いた。

扉を開けると、途端に風が吹き付ける。じかに線路を走る轟音も耳に入ってきた。辺りを見ると、どこか潮の混じった臭いと、真っ暗な景色。恐らく、東正十字駅などを過ぎて羽田空港に向かうところだ。
そしてやはり、思った通り連結は外れており、徐々に先頭車両と後続の間隔が開いてきていた。

すると突然、先頭車両から低いうめき声のようなものが響いてきた。バキバキという金属の変形する音もする。


「雪ちゃん!燐!」

「しえみさん!?」

「しえみ!」


その先頭車両の屋根の上に、先程の少女が現れる。彼女が呼ぶと、2両目の屋根から2人分の男子の声が響く。燐とあともう一人は分からない。

少女の後ろからは、恐らくこの列車の本体であろう黒々としたモノがせり上がってきていた。たくさんの目がついた塊だ。大きな口を開けて少女に襲いかかろうとする。

咄嗟に、千秋はマイボウを取り出した。一応持ってきていたものだ。いつもは丁寧に組み立てるが、時間がないため、素早くハンドル、リム、ストリングとつけていく。本当はつけるべきアームガードやチェストガードもつけずに、矢をアローに装填してストリングを引き、頬骨の下に当てる。
その間にも銃声が響いたが、倒すには至っていなかった。

すでに先頭車両との間隔は3メートルを越えており、連結部から悪魔まで死角はない。

まず一本、矢を放った。落ち着いていない場ではあるが、安定したリリースはお手の物だ。
ヒュン、という空気を切る鋭い音とともに、矢は悪魔を直撃する。電車の警笛のようなうめき声が轟いた。


「千秋!?」

「君は……!?」


その攻撃に気付いた燐たちが、上からこちらを覗き込む。


「早く何とかしてよ!!」

「お、おう!」


素人が慌ててやった結果でしかない、本職にやってもらわねば。しかし悪魔は今ので怒ったのか、こちらに黒い触手のようなものを伸ばしてきた。
まずいと矢を探すが、なんと一本しか残っていなかった。サッと内臓が青褪める。車体の上の2人からは、触手が死角になっているのか気付いていない。

触手の先端についた目がギョロりとこちらを見据える。このままではやられる。

ふと、その瞬間、頭に言葉が浮かんだ。前にキリスト教概論の授業で配られた聖書に書いてあったような気がする。


「…あなたの矢は鋭くて、王の敵の胸をつらぬき、もろもろの民はあなたのもとに倒れる」


思うがままに口にした途端、構えてもいないのに、光輝く矢がボウのポジションに現れる。それを構えると、普通の矢と同じ感覚があった。
何が何だか分からないまま、千秋はそれをリリースする。直後、光の矢は放たれるや否や分岐し、幾何学的な軌道を描いて触手を掻き消し、先頭車両の悪魔にも直撃した。先程よりも大きな悲鳴が上がる。


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