2進数のアイ−8


翌日、柔造は許可が降りたため千秋との面会をすることになった。千秋の要望で、一切の監視もない。秘密裏にやろうとしても、この国を管理するAIの前では無意味だろう。

いつもの部屋で、いつものようにベッドの千秋と向き合う。気まずい空気が流れた。久しぶりに会うこともそうだし、これから千秋の人格が消されてしまうこともあって、どんな顔をすればいいのか分からないのだ。


すると、千秋が「ぷふっ、」と噴き出した。何事かと見れば、いつも通りの笑顔。


「なにAI相手に気まずくなってんの」


おかしそうにする千秋に、つい 柔造もいつものように返す。


「なんで俺の気持ち察しとんねん」

「そりゃ俺AIだし?当たり前じゃん」


これもよく言っていた言葉だ。自分がAIだということは、千秋は分かっている。いやしかし、と柔造は思い直した。

ある意味で、千秋は分かっていない。自分のことを分かっていないのだ。


そんなことに気付いた柔造は、急にごちゃごちゃと考えていた心が凪いでいくのが分かった。吹っ切れたような、清々としたような。同時に自分の気持ちにも気付いて、笑いたくなるほど晴れやかな気分になった。


「…無理に笑わんでええ」

「っ、何言って…」

「分かってんねやで、作り笑いやって」


おかしそうにしていた千秋。しかし、それは柔造には作り笑いに見えた。"心からの"笑いではない。


「なんでそんなこと、」






「やって俺、お前のこと愛しとるさかい、当たり前やろ?」






いつもの千秋のセリフを借りて言えば、千秋は虚を突かれたように目を見開く。そして、じわじわと顔を赤くした。


「な…なに…いや、俺、AIだって言ってんじゃん…つか、俺の笑顔なんて全部プロトコル通りの作り笑いだし…」

「お前はもうAIやない。そら純粋な人間でもないかもしれへんけど、少なくとも、千秋は千秋っちゅー別個の存在や」


千秋は人間か、AIか。そんなものはどうでもいい線引きだった。
千秋は、千秋なのだ。それ以上でも以下でもない。

AIだからこそ、人と社会に優しく、自然や生命の尊さを知っていた。愛なるものを自我でもって感じ始めたら、他でもない柔造を求めてくれた。愛してくれたのだ。だから、この純粋で尊い存在を、愛してやりたいと思った。

ベッドの隣に座って、千秋を抱き締める。腕にすっぽりと収まる少年は、不安そうにしていた。あのプログラムを起動したときを思い出す。


「…ええか、もう面会時間は終わる。明日になれば、お前の人格は消されてまう。せやから明日、俺がチャンスを作る」

「チャンス…?」

「施設内のモン使うて爆弾作って、アンインストール直前に爆破さす。そんときに、お前をこっから連れ出すチャンス作んねや」

「そ、そんなことしたら…!」

「どっちにしろ、お前が消えてまうなら俺も生きてく意味あらへんし。お前が俺と来るならここで働くこともない。せやったら、同じやろ?」


どちらにしろ、柔造はこれ以上ここで働くつもりはない。千秋とともに死ぬか、千秋とともにここを脱出するか。爆発の隙にSAIAS本体のアクセス権限を甲府のバックアップから移して千秋に選択させるのだ。もし柔造と来るなら、千秋の力で施設から、そして東京から逃れられる。
そもそもSAIAS本体はバックアップ起動中も稼働を続ける。その社会インフラ機能への権限が甲府に移っているだけなのだ。権限の本体への返還は一瞬でできる。

そこまで話してタイムオーバー、面会は終わった。何か言いたげな千秋を残して、柔造は部屋を出た。これからこっそり、簡単な爆弾を作らなければならない。不思議と、焦りや恐怖はなかった。


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