Stoic Love−4
それから数日、いつも一緒に帰っていた2人だったが、この日は勝呂がどうしても学校に残らなければならなかったため、千秋だけで帰宅することにした。時刻は昼の13時過ぎ、勝呂は14時に来る予定だ。
昨晩は課題をやって遅くまで起きていたため、あまりにも眠く、勝呂を待たずに帰宅して寝ることにしたのだ。
鍵を開けて部屋に入り、薄暗い室内で電気もつけないままシャツとスウェットに着替え、ベッドに横たわる。昼食後の眠気マックスな時間だ、うつらうつらとするのは容易かった。勝呂にはインターホンを押しても出なかったら勝手に入るよう言ってある。もちろん合鍵を渡してある。
だから大丈夫、と意識を手放そうとした、そのときだった。
突然、視界にバッと何かが入ってくるなり、千秋の上にのし掛かってきたのだ。驚いて睡魔が吹き飛ぶ前に、そいつは千秋の両腕を上にひと纏めに手錠で拘束した。しかも、ベッドヘッドの柵に繋がれている。まったく動かせない。
「なっ、やめっ!?」
「うるさい、騒いだら今すぐぶちこむ」
抵抗しようと足をばたつかせると、乗り掛かる男が低く言った。なにをどこへ、なんて分かりきっていた。
よくよく男を見てみると、身長は160くらい、小太りで、髪は乱れている。見るからに不潔だった。そして息も荒く、千秋のシャツをたくしあげる。
抵抗できず動きを止めたままの千秋に、男はニヤリとした。
「いい子だね、千秋君…ハァ、ついに手に入る…!」
外気に晒された上体を恍惚と男は眺める。いったいどこから、と思ったが、 恐らくピッキングかなにかで侵入し、ベッドの下に潜んでいたのだろう。
男は千秋の腰を撫でると、いきなり胸にむしゃぶりついてきた。
「千秋君の乳首…!ハァ、ハァ、」
「ぅっ、く、」
気持ち悪い。気持ち悪い!
内心で叫びたいのを我慢して、きつく目を閉じる。胸元を這う肉厚な舌と、肌にかかる湿った吐息が、とにかく気持ち悪かった。
ちらりと時計を見ると、13:40を示している。律儀な勝呂のことだ、時間通り14:00には着くはず。もう少し耐えろ、と思った瞬間、一気に下着とスウェットを下ろされた。
「もう我慢できない…っ!ほんとは全身舐め回したいけど、さっさと解して中にたくさん出してあげるからね…」
「っ!?」
息が荒い男は本当に余裕がない。こいつ絶対童貞だ、と毒づきながら、ローションが股間に垂らされる感触に震える。
穴に指を押し付けられ、少しずつ侵入してくる。意外と丁寧にやっているが、できれば可及的速やかに死んで欲しい。睨み付ける間にも、どんどん指は増えていく。
時計を見る。14:55。このまま勝呂が入ってくると、手錠で動けないこちらが不利だ。人質にされかねない。焦らず、頭を落ち着かせる。どうすれば勝呂は効率的に動ける。
「…ん、ねぇ、手錠、外して…」
「だめだよ、抵抗するでしょ」
「しない…ごめん、さっき、恥ずかしくて、暴れちゃっただけなんだ…照れちゃって…」
「…そうなの?」
「ん。…だから、外して?ぎゅってしたい」
自分で言いながら吐きそうだ。それでも男は大喜びで手錠を外す。うん、童貞に違いない。
腕が自由になると、男のだらしない体を抱き締めた。
直後、インターホンが鳴った。男の体が強張る。
「居留守使お」
「そうだね…」
ねっとりと首筋を舐め上げられ鳥肌が立つ。だが、もうすぐだ。
鍵の回る音、そして玄関が開く音が立て続けに響く。今度こそ男は固まるが、暴れる前にがっしりとホールドしてやった。
短い廊下を進んで、勝呂が部屋に入ってきた。それと同時に腕と足を男から離す。その次の瞬間には、男は勝呂に蹴り飛ばされ、ベッドの横の壁に叩きつけられた。
「二宮!!」
「っ、勝呂!!」
すぐに千秋はベッドから飛び出し、勝呂に抱き着く。勝呂はそれを受け止めて、自身の背後に千秋を隠した。
勝呂は、顔を歪めて怒気を放っていた。こちらの身の竦むような代物だ。
「俺の二宮に手ェ出しよって、ただじゃ済まさん!!!」
「…っ、勝呂…?」
確かに演技として、ストーカー男が勘違いしそうな距離感で過ごしていたし、そういう設定だった。しかし、解決も近い今、それをまだ続けるのだろうか。
千秋のそんな疑問にも気付かず、勝呂は男を殴り付けたあと、男の腕を背中で合わせ手錠で拘束した。呆気ない幕引きだった。
呆然として座っていると、勝呂が駆け寄り、抱き締める。
「もう大丈夫や。これで、終わりやさかいな」
「…勝呂、俺、」
「怖かったやろ、遅なってすまん」
「いい、来てくれたから、いい…!」
じわじわと恐怖が沸き上がる。勝呂が来てくれると分かっていたけれど、それでももし、という恐ろしさは確かにあったのだ。
「ありがと、勝呂、ほんとに…!」
それにはやはり、強く抱き締め返された。