君はヒーロー−5
防災センターは建物の防災を一括管理するが、このような火災時にエレベーターを非常運転に切り替える作業が必要だった。
当然火災ではエレベーターが止まるが、耐火性のある非常用エレベーターは、防災センターの運転切り替えのもと、鍵を差し込むと非常運転を開始できる。階数ボタンのところなどに鍵穴があるのはそのためである。
基本的には、消防士に防災センター要員が鍵を渡し、以降は消防士がエレベーターを運転させるようになっている。
もし1階が損傷し、分室もバイトなのであれば、このビルのエレベーターは動かない。つまり、消火するために階段を駆け上がらせることになる。
とにもかくにも、従業員たちに指示を出さなければならないし、出火階の状況も確認できていない。パニックを避けるためにも、22階のパーティー客が使う特別避難階段の防火扉を出火階で閉じることも必要だ。
怪我人がいれば運ばなければならないということもある。
千秋は近くのウェイトレスに15階へ向かう旨を告げると、別の特別避難階段を駆け降りた。
階段を駆け降りる革靴の音が響く中、千秋は一通り出火階の従業員に電話をかけるも、すべて不通だった。
それを確認したところで15階に着き、フロアに出る。廊下には不安そうな宿泊客が出てきていた。
確か、11階までの低層階に約40人、12階から20階までの中層階に約30人、21階から最上階の27階までの高層階に8人宿泊していたはずだ。
22階パーティー会場には120人近くがいたため、ホテルには200人の客がいる。そのうち、11階の出火階から上には160人あまり。
よりによってパーティーの日に、と舌打ちをしながら防災センターに駆け込むと、先ほどの電話口の警備員がもはや泣いていた。
「二宮さぁ〜ん…!」
「泣くな谷口!」
警備員、谷口を叱咤すると、放送設備を起動する。こうなったらここでアナウンスするしかない。モニターを確認すれば、谷口が言っていた通り、地下1階と11階、そして21階で出火の警報が鳴っていた。
『館内のお客様にお伝えします。現在、地下1階、11階、21階のレストラン区画にて、火災が発生しております。従業員の指示に従って、特別避難階段より避難を行ってください。従業員へ、10階および12階、20階の従業員は、避難完了後、15階の防災センターへ来てください。それ以外の従業員は各特別避難階段にて誘導をしてください』
これで館内秩序を示せるだろう。もうすぐ消防の先陣が到着する頃だ。もし1階の防災センターの設備自体は生きていれば、消防士が来てくれるはずだが、望みは薄い。
やがて、指定したフロアの従業員が15階にやって来た。一様に怯えている。集まった従業員たちを見渡して、千秋は口を開いた。
「…これから、出火階の11階と21階の簡単な捜索をする。でも、訓練よりも頑張らなくていい、こんな爆発想定外だからね」
さらに怯えを見せる従業員を安心させるように付け足したが、意味はないだろう。それが仕事とはいえ、爆発したフロアの捜索などしたいわけがない。
「消火栓の使い方は訓練でやった通り。酸素マスクはここにある。簡単な消火をしつつ、運べそうな怪我人を附室に運ぶんだ。絶対、無理はしないこと」
暗に逃げてもいいと言えば、顔を強張らせながらも頷いた。あと15分もすれば、11階には消防士が到着する。
「11階の怪我人は10階か附室へ、21階の怪我人は22階か附室へ」
「21階の怪我人は上ですか?」
「レスキュー隊が屋上から来るはずだから」
「っ、分かりました」
レスキュー隊が来る、それだけで待つ人々は勇気付けられるのだ。
「谷口、俺と21階に行くぞ」
「…はいぃ…」
情けない声を出す谷口の肩を叩き、それぞれマスクをつけて防災センターを足早に出ていく。千秋は逸る胸を押さえながら、階段を上っていった。