不浄王編番外4 金兄のバンドは売れる気ゼロ


●不浄王編後
金造のライブの話



観光を終えて旅館に戻ってくると、貸切で利用させてもらったからということで、候補生たちがその後片付けに駆り出された。大人は大人で様々な片付けがあるため、候補生たちは掃除と雑用を押し付けられた。完全にいいように使われている。

雑巾がけをして、その雑巾を交換しようと中庭に面した廊下を歩いていると、曲がり角を曲がった廊下の先に廉造がいた。


「俺あっついの苦手やねん…」


ひぐらしの鳴き声が響く暑苦しい夕暮れ、思わずといった感じで呟いていた。
そこで声をかけようとすると、その目線が中庭の向こう、2階の窓から雑巾をはたく出雲に向かっているのが見えた。つい立ち止まると、その横の部屋からそっと金髪の男が廊下に出てきた。金造だ。


「笑たらええのになぁ」

「なんやお前あの子好きなんか」


驚いた廉造と金造が話し始めると、何となく出ていくのが憚られて、曲がり角のところで隠れてしまった。


(いや、なに聞き耳みたいなことしてんだ…)


だが動こうにも気配を気付かれそうで躊躇われた。2人の会話は進んでいく。


「ここに俺のライブのチケットが2枚ある」

「は?」

「今日の夜7時半からやさかい、誘ってこいや」


間違いなく金造の示す相手は出雲だろう。金造はバンドをやっていると聞いたことはあった。


「はあ?誘うてデートにてこと?自分の兄貴のライブに?ちょっとダサい…」

「誰が臭いやボケェエエ!!」

「ぎゃああああ!!!」


アホの子金造が勝手に勘違いして、廉造に何やら攻撃をしかけたらしい。廉造の悲鳴が響いた。


「体裁気にしとる場合か!!ホンマに好きやったら、燃え尽きるまでとことん熱なってみせろや!!」


どこかの元テニス選手のような熱いことを言っている。廉造がそういうことは好きでないのは容易に想像がついた。


「えっと、キャラちゃうし無理。女子引くし」

「アホ、逆や。熱くもなれんやつが人の感情動かすなんてできひんねや」


一瞬の無言。
ついで、金造がこちらに向かって歩き始めた。どうやら料金は廉造からこっそり盗んだらしく、廉造が騒ぎ立てているが、金造は気にせずにこちらへ歩いてきていた。
今さら隠れても逃げてもしょうがないだろう。恐らく、さすがに金造もここまで近付けば気付いている。
金造は角を曲がるなり、壁に背中を預けて立っていた朝祇を見て片眉を上げた。


「なんや、朝祇君やったんかい」

「…どーも」

「てか、あいつあの女の子好きや言うて朝祇君おるやんか、忘れとったわ」

「あー…神木さんのことは好きではないみたいですけど…」


やっと勘違いに気付いた金造に苦笑する。しかし、その次の瞬間に廊下から廉造の声が聞こえてきた。


「ええ!?えっ、えっ、ええの!?俺と2人でええの!?」

「ちょ、勘違いしないでよね!?」


どうやら 出雲もこの辺りに来ていたらしい。廉造がちょうど誘っていたようだ。まさか出雲がうなずくとは。


「ってかほんとに誘ったのかよ…」

「おっ、破局か?せやったら俺と1発どーや?」


呆れてしまうと、金造がニヤリとして朝祇の横の壁に寄り掛かって見下ろしてくる。何言ってんだ、とジト目で見上げる。


「…さっきは格好いいこと言ってるな、って思ったんですけど」

「しゃあないやろ、君がかいらしいんやもん」

「女好きなんじゃないでしたっけ?」

「んー、かわええモンはかわええし。小難しいことは考えへんのや」


蝮がサル呼ばわりするのも納得である。まったく、廉造とは本当に兄弟だ、どこまでも。


「まっ、安心せえ。坊や子猫丸たちにもチケット渡したさかい、皆来るで。デートにはならへんやろ」

「そう、ですか」


分かってはいるが、廉造がデートにならないというのは、どうしても安心してしまった。思わずほっと息をついたのがバレたらしい、金造はくつくつと笑った。


「安心しとる安心しとる、かぁええなぁ〜」

「…そーですか」

「そんな朝祇君にもチケットをくれたるで」


金造はそう言うと、チケットを1枚、朝祇に渡した。受け取ると、額面は2000円とある。財布に手を伸ばすと、金造はそれを止めた。


「ええよ。いつもウチのソテーが世話んなっとる礼や」

「…………………あっ、愚弟ですか?」

「それや」


突然のバター香る言葉に何かと思考を巡らせれば、愚弟と言いたかったらしい。そんなアホなところが面白くて、笑って礼を言った。


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