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宿泊している部屋に戻ると、同じ部屋の廉造も戻っていた。さて、ここからが見物だ。
朝祇は廉造が出雲とデートとしてライブに行くことを知っているが、廉造は当然知らない。その上で、どのような言動をするのか観察するのがただただ楽しみだった。
廉造が浮わついた言動をして、朝祇が当て付けのように他の人物の名前を出したり、女の子に声をかけられたときにそちらに傾くようなことを言ったりしてからかうのが2人のよくあるコミュニケーションだ。
この程度で壊れるような絆ではないからこそ、こんな軽い言動を互いにするのだ。対外的には、付き合っていることを隠すカモフラージュにもなる。
さてどうする、と見ていると、廉造が動いた。
「朝祇、俺今日は実家戻ることにするな」
「そうなの?俺もそーしよっかな」
盛り上がって参りました、と朝祇は内心にやける。あくまで廉造は隠して行くらしい。それならこちらも隠しておいて、現地でドッキリのようにしてやろうと画策した。廉造は実家で着替えてくるのだろう、少し早めに部屋を出ていった。先に着いていなければならないため、朝祇も立ち上がる。
旅館の玄関まで行って扉を開けると、もう日が沈みきった、天鵞絨色の空になっている。それを見て、ふと思った。
(あぁ、でも、今日は側にいてほしかったかも、なんて)
昼間にあんなことがあったからか、少し気落ちしそうになった。
そこへ、背後から声をかけられる。
「あれ、朝祇君やん」
「あ、どうも、柔造さん、八百造さん」
声をかけて来たのは柔造で、隣には八百造がいた。柔造は私服で、八百造は着物だった。
「ひょっとして、朝祇君も金造のライブ来てくれるん?」
「はい、そうです!」
「そうなんか!おーきになぁ。せやったら、一緒に行こか」
「わかりました!」
どうやら柔造たちも観に行くらしい。 3人で会場に行くことになった。明陀宗の人たちが時おり挨拶してくるため、恐らくかなりの身内が観に行くのだろう。
気温の下がらない街中を歩いていると、柔造が少し声を落とす。
「金造からメールもろたで。廉造が女の子誘ってデートのつもりで来るんやって?」
「そうですよ」
「…デートしてくる、て言うてた?」
「言いませんでしたねぇ。ドッキリの刑確定なんで、俺も実家戻るって嘘ついてきました」
「ほー…なるほど」
煮えきらない相槌を打ってから、柔造は世間話に戻った。一抹の疑問は抱いたが、すぐに朝祇も何てことはない話に集中した。
***
ライブ会場にやって来ると、中には結構な数の人が集まっていた。とはいってもほとんど明陀宗だが。
その一番後ろ、出口付近のテーブルに座って、八百造と柔造は酒を頼んだ。朝祇のジュースまで奢ってもらってしまった。
やがて勝呂たちやしえみもやって来て、宝以外の候補生は揃った。
「そういえば、朝祇君はどないな音楽聴くん?」
「え、あぁ、俺はクラシックが実は好きで…」
「へぇ、高校生で珍しなぁ!」
そろそろ勝呂たちに合流するのが普通というか、柔造ならそれくらい察して朝祇をそちらに合流させそうだ。それなのに、あえて会話を続けているような感じがする。なんだろう、と思いながら窺っていると、廉造と出雲がやって来た。
思った通り、勢揃いの様子を見て笑みを引き攣らせていた。
「って朝祇!?今日は実家て…」
それに答えようと口を開くと、突然肩を後ろから抱かれた。突如として抱き締めてきたのは、柔造だ。
「どっかの誰かさんもこっそり来てたらしいやん?せやし今日は俺が朝祇君と内緒で来てるんや」
「…へえ、柔兄が…?」
いつもは朝祇がからかって、廉造が泣きついて終わりだ。それなのに、柔造がからかい役を代わって朝祇を抱き締めただけで、廉造は冗談のない、険呑な目つきになった。
「…あっそ!」
廉造は柔造を睨み付けてから、出雲と人混みに入った。それを見て、柔造は朗らかに笑う。