モンペたち
●温泉回後
廉造視点
勝呂と燐のモンペ化について
イルミナティから帰ってきて1週間ほど、廉造は勝呂たちとの若干の蟠りも一応解決させ、落ち着いた日々に戻っていた。変わったことといえば、反動なのか、朝祇が前より甘えてくれるようになったことだろう。
廉造としても離れていた分甘やかしてやりたくてしょうがなかった。期間としては正直、朝祇が米国に行っていた1週間の方が長い。しかしイルミナティは先が見えないものであったし、何より危険を伴った。離れる距離があらゆる意味で異なるのだ。だから、とてつもなく長い離別のように感じられた。
特に朝祇は父親と腹違いの妹の変わり果てた姿を目にしており、そのショックは本人は気付いていなくともまだ消えきっていない。それは廉造にも、そして勝呂たちにも分かっている。そのため、朝祇と廉造がイチャついていても目くじらを立てなかった。
そんなある日、燐が遊びに来たときのことだった。
***
ソファーの片方に勝呂、子猫丸、燐が座り、反対側に廉造と朝祇が座る。しかし朝祇は少し前に廉造の肩に身を預けて眠りに落ちていた。
その頭を撫でながら他愛のない話をしていると、ふと廉造は気になったことがあったのを思い出す。
「そーいや、なんで坊と奥村君は朝祇のモンペと化したん?」
「あー…」
帰ってきてからというもの、なぜか勝呂と燐は朝祇に対して過保護となり、舅のようにうっとうしく感じていたのだ。聞いてみると、勝呂は言いづらそうに頬を掻く。
「ちょいと恥ずかしいんやけどな…」
勝呂が言いづらそうにするのは珍しい。廉造も、子猫丸や燐も興味深そうに注目した。
「…不浄王んとき、奥村と一緒に戦って…奥村や、一ノ瀬んことをようやっと友達やて認識したんや。今まで特にそないなこと考えたことあらへんかったけど、初めて意識した感じやな」
「お、おう……志摩たちは?」
友達と言われて少し照れたようにしてから、燐はその枠に入らなかった名前をあげる。
「志摩と子猫丸は、いまだに分からん。ずっと昔から一緒やったしな」
「ま、まぁ俺らのことはええやろ」
男としてはちょっとこの手の話は気恥ずかしいものなのだ。廉造は聞きたいことと関係もないため、話を戻させる。
「…んで、七不思議で子猫丸に俺が頭張る必要ないて言われて、それでまた意識変わったんや。俺だけ一歩前におるんやない、皆横並びやてな。そう気付いたら、一ノ瀬て俺にとってめっちゃ大事なやつやて分かった」
七不思議の任務で、勝呂が常にリーダーをやる必要はないということを子猫丸に指摘されたときのことだ。それをきっかけに、塾生たちが対等だと意識したらしい。生まれながらにリーダーであることを求められてきた勝呂のなかでは、大きなことだったのだろう。
「一ノ瀬は、守るべき明陀でもあらへんし、奥村みたく厄介なもん抱えとるわけでもない。頭もええし、1番気兼ねなく話せるやつなんやな、てな」
廉造は確かに、と思う。勝呂にとってしてみれば、朝祇は支えなければならない相手ではなく、本当に独立して対等な関係を築ける相手だったのだ。無意識にそれを感じていたのだろうが、不浄王や七不思議で意識したのだという。
「…せやから、あのイルミナティでの一ノ瀬の様子見たら、ホンマに許せへんて思うた。傷つけられとるのを見て、これ以上あないなこと経験して欲しないて」
「なるほどな、それ分かるわ」
すると、燐も口を開いた。最近特に見かけるようになった、大人びた真面目な顔だ。
「俺の中での一ノ瀬ってさ、超つえーやつなんだ。頭いいし、冷静だし、すげぇ悪魔呼び出すし。何より、サタンの息子だって知っても、『もっと残酷なやつなんて腐るほどいる』っつってくれた」
廉造の中では、精神的に危うい面もあれば男前なところもある朝祇だが、周りには後者の面しか見せていない。だから燐のイメージは間違っていないと思う。
「青い炎見ても、俺の燐って名前に合ってキレーなもんだって。俺、一ノ瀬のそうやって受け入れてくれるとこに、めっちゃ救われたんだ。だから、島根であんなことになったとき、一ノ瀬だって弱いとこあって当たり前なんだって気付いた。気付いたら、次は俺が守りたいって思ったんだ」
その結果がモンペなので、廉造としては正直なところ、イイハナシカナー?と内心では思っている。ただ同時に、勝呂や燐の話を聞くと、実は少し自信をなくしそうだというのもあった。
「いやー、はは、なんや2人が朝祇の彼氏のがいい気がして来るわー。スパイの俺より全然、幸せにしてあげられそうやし」
笑いながら言ったが、これはバレてしまっているかもしれない。ずっと一緒だった勝呂たちや、機敏に鋭い燐に隠すにはお粗末な笑顔だっただろう。
そんな廉造に、燐は呆れたように言う。
「男は無理だっつーの。つか、一ノ瀬はお前が思ってるよりも遥かにお前に影響受けてんぞ」
「せやで。お前が一ノ瀬をこんなにしたんやさかい、最後まで責任とらな」
「そう、なん……?」
何でもないように2人は言う。それに廉造は虚を突かれた。
「お前の影響受けて今みたいになった一ノ瀬を、俺は友達として大事なやつだって思ってる」
「…っ!」
そして、燐の言葉に、少し泣きそうになった。とてつもない誉め言葉のようであり、自信のないことを言った廉造を奮い立たせるものでもあった。
「…せやね、まっ、たとえどうであっても朝祇を渡すつもりあらへんけど」
「おー。まぁ、そもそもお前より一ノ瀬のがあらゆる意味でイケメンだしかっけーけどな!」
「ちょお酷い!!」
上げて落とすとはまさにこのことだ。
それでも、廉造はここに戻ってこれて良かった、なんて柄にもなく心底思ったのだった。