家出
●クロの家出(アニメ版原作版ごちゃ混ぜ)
遊園地での任務のあと、全身の筋肉痛に悩まされてから、期末テスト期間が始まった。特に成績の問題はないため、朝祇は少し確認をする程度である。
しかし、そんなテスト期間のある日、朝祇は廉造と喧嘩してしまった。
理由は何だったか、それすらも忘れて喧嘩はヒートアップ。どうせ大したことではなかったはずだ。それなのに加熱した喧嘩は、やがて勝呂たちの仲介も受け付けないほどになった。
「もういい、俺しばらく出てくから」
「勝手にせぇや!」
「別にお前に許可なんて求めてねぇわピンク野郎!」
「なんやと全身入れ墨男!」
売り言葉に買い言葉、もはやただの悪口である。呆れる勝呂や子猫丸を放って、朝祇は太陽の傾き始めた空の下に出た。
夏は夕方前が1番暑い。それに辟易としながら適当に歩き始めた。
***
ふらふらと暑いところを避けて歩くうちに、朝祇は学園町の地下街にやって来た。何となく地下の正十字学園駅へと向かうと、地面をとことこと歩く小さな影を見つける。二股に割れた尻尾を持つ猫。
「あれ…クロ?」
『ん…あっ、りんのおともだちだ』
「朝祇ね。さっきぶりだけど、どうしたの?」
黄龍を介して言葉を聞くと、クロは尻尾を揺らして寄ってくる。
実は、朝にも一度クロとは会っていた。勝呂たちと登校するときで、子猫丸がマイ猫じゃらしでクロと遊んでいた。登校前だったためすぐお別れとなった。
あのときはまだ、喧嘩するとは思っていなかった。猫があまりにも好きな子猫丸に、「子猫丸だけに」なんてつまらないことを抜かしていた廉造を蹴飛ばした。
思い出して眉を寄せてしまうが、今は目の前のクロだ、としゃがむ。
『しろーのとこ行こうとおもって!』
「……藤本神父のこと?」
『そう!』
前聖騎士の藤本獅郎は、奥村兄弟の育ての親であり、クロを使い魔にしていた人物だ。この春、燐を守って亡くなったと聞いている。
燐の正体は、遊園地でシュラにはバレたものの、他の者には知られていない。クロも、燐の正体自体は知らないはずだ。
「てか奥村は?」
『あいつはダメだ…おれはひとりで生きていく!』
「ふーん…?まぁ、とりあえず神父の墓参りするなら一緒に行こうよ、俺も家出中なんだ」
『そうなのか?』
ゆらり、と尻尾を揺らすと、クロは軽い身のこなしで朝祇の肩に乗る。
そのまま駅に入ると、東京モノレールで羽田空港方面へ向かう。正十字学園から地上に出ると、東京湾に夕陽が映って輝いていた。もう夕方だ。
次の昭和島駅で降り、歩いて南十字地区へ入る。すっかり暗くなった異国情緒溢れる街を歩いていくと、クロが今日出会った人たちについて話してくれた。
『へんな眉毛のやつ、すげー猫なで声だった!』
「え……神木さん、だよな……マジか」
朝、朝祇たちが会う前に出雲と会っていたらしい。やたら猫なで声で絡んできたそうだ。意外過ぎて聞いて良かったのか、とすら思う。
『しえみはご飯つくってくれたけど、この世のものとは思えない味だった……』
「えっ、杜山さん料理下手なのか……」
またまた意外な事実に、もはや震える。しえみは女子力高そうなのだが。
『あと、街灯にぶらさがってバクダン焼きたべてるヤツがいた…なんかみどりの腕で、とんがってた。すげーこわかった!』
「……それアマイモンだろ」
何をしているんだ、と呆れる。
そのほか、やたらアゴヒゲの濃い男がバイクに乗っていた(おそらく椿だ)こと、ピンクの犬が噴水で変なことを呟いていたこと(おそらくメフィストだ)など話してくれた。
この街、変なヤツ多くないか、と朝祇は笑顔を引き攣らせた。
ちなみに燐と喧嘩したそうだが、すき焼きを猫舌なのをいいことに独り占めされたからだという。燐のことだ、ちゃんと残しているだろう。墓参りを済ませればそのうち解決するのだろうが、迎えに来てもらった方がいい。
朝祇は修道院に到着すると、クロを下ろす。
「クロ、俺は先に帰るね。ゆっくりしておいで」
『おー!ありがとな、朝祇!』
クロはにゃあと鳴きながら言うと、俊敏に墓地へと入っていった。それを見送り、朝祇はスマホを取り出す。電話をかけた先は燐だ。
「あ、もしもし奥村?今クロと一緒にいたんだけどさ」
『マジで?あいつどこほっつき歩いてんだよ……』
「なんか藤本神父の墓参りするっていうから、一緒についてきたんだ。今修道院に入ってった」
『えっ、南十字にいんのか。しかたねぇな、迎えに行くか』
「そうしてやって、俺は先帰るから」
『おう。つかお前も家出してんだろ、志摩から聞いた。あいつ捜してたぞ』
「……そっか、なら早く帰んないと」
燐はクロのことも朝祇のことも、少し呆れたように心配してくれた。兄貴だなぁ、なんて思いながら通話を終えると、駅に向かって歩き出す。
それにしても、廉造が捜しているとは。一応場所を把握しておこうとして友人に確認したのだろう。そうしたら誰も行方を知らないものだから、焦ってくれているのだ。そのわりにこちらへ直接電話がないのは、まだ喧嘩中の体裁だからか。あまりにも音沙汰がなければ電話してくるはずだ。
ちょっと子供っぽいことをしてしまったな、と自分でも呆れるが、それも廉造相手だけなのだと思えば悪くないように思えてしまう。
そうして再びモノレールで正十字学園駅へ着き、地上へ出ると、改札の前のロータリーに見慣れたピンクが見えた。外は雨が降っている。
「……廉造」
「朝祇、ごめんな」
「俺こそごめんね」
お互い、そこまで子供でもない。素直に謝罪を口にして、何やってるんだろう、なんて笑いあった。その傘の下に入ると、ビニール傘を差し出される。
「これ、持ってきたで朝祇の分」
「んー、いいや。廉造と相合い傘で」
傘を持つ廉造の腕にそっとくっつくと、廉造は傘を少しこちらへ傾ける。
「やっぱ俺の隣には朝祇がおらんと」
「言われなくても隣にいるよ」
「あ〜好き」
そんなバカップルみたいなことを何も考えずに喋る時間が、大事に思える。きっとクロも、燐とのそうした時間の大事さに気付くだろう。