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朝祇と廉造は他愛のない話をしながら列を待ち、90分の待ち時間を難なく過ごした。部屋でだべっているときなどは、もっと長い時間を平気でだらだらと費やせる。
そうして順番が巡り、朝祇たちの番となった。


「しっかり一番下までバーを下してください」

「いやぁ、この時間が一番ハラハラすんねんな」


係員がセーフティーバーの指示をしているのを聞き流しながら、2人はバーを下ろしてワクワクとしながら待つ。右隣に座る廉造は、ニコニコとしながらそんなことを言っていた。


「高まってくるよな」

「朝祇が言うと全然そう聞こえへんけどな」


冷静に高まるなどと言っても信憑性に乏しいのは自覚している。しかし、しっかり朝祇はドキドキとして進みだすのを待っていた。それは廉造にもわかっているようだ。


「まっ、俺にはちゃんと朝祇が楽しみにしとるの分かってるけど」

「結構分かりやすいだろ」

「ホンマに言うとる?」

「まさか」


自虐のようなよくわからないことを言って2人で笑うと、いよいよバーが固定され、係員が確認していく。列を待つ他の人々の視線に晒されながら、係員がバーをゆさゆさ揺らすのを眺めた。


「アメリカのホラー映画思い出すんだよな、ジェットコースター乗るときって」

「うわ、まさかあのジェットコースターが事故って次々とスプラッターな死に方してくやつ?なんでこないなときに言うねん…」

「逆にいつ言うんだよ」

「朝祇ホンマおもろいわぁ…」


そこで、ガクンとコースターが揺れる。ようやく出発だ。係員が機械的な明るさで「いってらっしゃ〜い」と手を振った。ジェットコースターの名前は"Go to hell"というメフィストの所有物らしい名前だったりする。
屋内の影から、若干肌寒い外へとコースターは出ていく。カーブしながら上昇レールに差し掛かり、最高地点に向けてゆっくりと登り始めた。冬の淡い陽光に照らされて、学園町と東京の住宅街、多摩川、川崎市と市街地が見渡せる。危ないからとマフラーは荷物を預けるロッカーにあるので、寒く感じた。


「さっむ…」

「大丈夫?朝祇」

「まだな、けど下り始めたら結構きついかも」

「感じひんのとちゃう?」

「あー、それもそうか」


緩くそんなことを話すうちに、コースターは一番上までやって来た。見晴らしはいいが、学園町の高層部の方が上にあるためそう感動はない。しかし、いよいよ落ちるという興奮は最高潮に達した。


「朝祇!四つ目の落ちるとこやからな!」

「分かってる!」


撮影ポイントの話だ。
その直後、ついにコースターは降下を開始した。一瞬の浮遊感と内臓が置いて行かれるような竦む感覚。そして、一気に風を切ってレールを爆走し始めた。飛ばされてしまいそうな、腰のあたりがやたら落ち着かない感覚とともに急速な落下が風となって頬に感じられる。


「ひゃっほ〜〜〜!!!」

「あはは、はは、あっはははは!!」


軽い歓声を上げる廉造と、ひたすら笑う朝祇。よくあるジェットコースターのリアクションの違いを忠実に2人は出していた。朝祇はこういうときにずっと笑っているタイプだ。
何度も降下とカーブを繰り返し、Gを感じながら振り回される。やがて、コースターは四回目の降下に差し掛かった。2人はすぐさま体制を整える。


「いくで!」

「はは、おー!」


右隣の廉造は右手を、朝祇は左手をそれぞれ体の前に出し、形を作る。カメラの方向は分かっている。シミュレーションは完璧だった。
一瞬光が見えたと思えば、すぐにコースターはカメラと思しき場所を離れて最後のカーブに向けて突っ切っていった。


コースターが停止し、反動で前に上体が引っ張られてから、アトラクションは止まった。ゆっくりと待機場所に戻っていくコースターは、乗客たちの心地よい疲労感と興奮に満ちていた。


「あー、笑った笑った」

「なんや一年分の朝祇の笑い見た気分やわぁ」


絶叫が苦手らしい勝呂あたりは吐きそうになっているだろうが、2人は特に絶叫は苦手ではないため平然としていた。完全に機械が停止し、バーが上がると同時に2人はロッカー側へと出て荷物を回収する。
階段を下りて出口へ来ると、写真コーナーがある。天井近くの画面には、コースターの車両ごとの写真があった。ほとんどが絶叫に顔を歪めるものばかりであるのに対し、一枚だけ異質なものがあった。


「おっ、成功して…ふっ、くく、」

「ぷっ、ふふ…!ええやんこれ…!」


廉造と朝祇の写真には、片手ずつ手を出してひとつのハートの形を作っているカメラ目線の2人が写っていた。


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