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ジェットコースターを離れる頃には正午になっており、早めにどこかに入るのが得策なような時間だった。相変わらずにぎやかで、様々なアトラクションの音が満ちる広場に出ると、ようやく寒さを思い出す。冷たい風が喉元を切っていく感覚の冷たさをここでやっと自覚したような形だ。


「さっむ…」

「そーいやさっきも言うとったね…じゃあ、こっち行こか」


廉造はそんな朝祇の様子を見ると、すぐに方向転換をした。レストランが並ぶ区画ではない方面だ。


「廉造?そっちレストランとかあったっけ?」

「あるで〜」


さくさくと進んでいくと、あまり人のいない場所に大き目の建物があった。どうやらレストランのようだ。区画と言ってもだいたいでしかないため、このようにいくつかのレストランは離れたところに立っている。
木造っぽく作られた外見の建物に入ると、中も山小屋を模したような温かみのある木目調の様相になっていた。まだ人は少なく、しかしランチタイムは始まっているようだ。少し奥まったところにある席に座ると、廉造はメニューを横向きにして2人一緒に見られるようにした。


「ここシチュー系が有名なんやって〜」

「へえ、そうなんだ」


普通は遊園地の食事などチープなのに高いものだが、この遊園地は一応学園町にあるだけあって、グルメ的にも有名な店もいくつかあった。雑誌などに掲載されていることも多く、廉造が下調べしてきたのだろう。寒がる朝祇を見て、温まるシチューが有名な店に連れてくるとは、やはり廉造の彼氏力はとても高い。


「…廉造マジで好きだわ…」

「ふふーん、惚れ直した?」

「ずっと惚れてる」

「俺も〜」


勝呂か燐がいれば「バカップルめ」と恨めしそうに言われるのは目に見えているようなことを言い合う2人だが、今はそうやって横やりを入れてくる者もいない。2人きりなのだ。改めてそれを感じて、気分が上がるのを自覚した。


***


シチューに舌鼓を打ったあと、2人は食べたあとということもあって激しくないところへ行くことにした。鏡の迷宮やら謎解きものやらを回ったが、頭が固い2人は謎解きものにまったく歯が立たなかった。
「なんも成長してないな…」「言うたらあかん…」という情けない会話をしてから、今度はお化け屋敷へとやって来た。

30分ほど待つと、わりとすぐに順番がやってくる。そう怖いという話は聞かないので、客も気軽に入って出てくるのだろう。
中に入ると、手前で係員にいろいろと注意を聞いてから、さらに奥の暗闇へと促される。外と比べるとかなり暗く、目が慣れないとまったく見えない。


「暗いな…」

「俺がおるで朝祇〜」


きょろきょろとして目を慣らしていると、廉造がにやにやとしてるだろう声音で手を繋いできた。


「ちょ、おい」

「大丈夫、ここ生身のスタッフおらんから」

「なんのチェックしてんだ…」


なんの下調べをしているのか、と呆れるも、廉造に繋がれた手は解かない。暗いこともあり、そのままにしておくことにした。
デートといえど、さすがに外で手を繋いで歩くようなことはしない。学園の生徒もいるだろうし、いくら自由な時代といえどまだ好奇の目で見られるであろうことも容易に想像できた。
ここでなら堂々とできる、という魂胆は2人にあった。

学園祭では、塾生のしえみによって驚かされてしまったが、今日はそんなイレギュラーもない。機械の動作する気配で驚かせて来るものを察知できていたので、特に怖がることもないまま、つかの間の恋人繋ぎを楽しんだ。


やがてお化け屋敷をクリアして難なく外へと出ると、名残惜しいが手は放した。何事もなかったかのように日が傾いた空の下に出る。


「あ〜、やっぱ大したことあらへんかったな」

「そりゃね」


本物を見ているのだ、驚いてたまるかといったところだ。


「そろそろ帰らな。明日も学校やし…」

「そだね」

「せやし、最後はやっぱあれやろ」


廉造が指さしたのは、やはりというか、ベタに観覧車だった。これも最高地点は学園町より低いのだが、観覧車に乗って締めるという儀式のようなことが大事だった。



2人はそう遠くないところにあった観覧車にやってきて、文字通り客の回転が速い列をすぐに抜けてゴンドラを待つ。係員の指示に従ってゴンドラに向かい合うようにして乗り込むと、扉が閉められて、ゆっくりと上り始めた。

静かな空間に機械音だけが響く。夕暮れの太陽が東京湾に映り、広大な市街地を赤く染め上げる。


「廉造、今日は誘ってくれてさんきゅ」

「ん、俺も朝祇と来れて良かったわ」


夕景を見ながらつぶやくように言うと、廉造も静かに笑って返す。一日の終わりはいつも同じようなものなのに、こうして密度の濃い時間を過ごした日は物悲しく、寂しく感じられるのだ。


「…俺さ、夏のここでの任務のときに、ちょうど廉造と来たいなって思ったんだよ」

「ホンマ?俺もあんときに初めて思ったで」


どうやら、あのアマイモンと戦った任務で感じたことは同じだったらしい。廉造と来たら絶対に楽しいだろうと思ったのだ。


「…お前がイルミナティに行く前にも思った。そんで、もしかしたら、二度と行けないかもしんない、とも思った」

「……せやね」


再び廉造は静かな返答をする。ゴンドラはそろそろ一番高いところに着こうとしていた。
そこで目線を街並みから外し、正面に座る廉造に移した。


「だから、来れてよかった」


それを聞いて、廉造はふっ、と笑う。
そして、身をこちらに乗り出して、朝祇と唇を重ねた。突然のことに一瞬驚くも、目を閉じて応じる。すぐ近くに廉造を感じた。
廉造は体を離すと、柔らかく微笑む。2人きりのときによく見せる、大人びた男の顔だ。


「この観覧車、てっぺんでキスするとずっと別れないって有名なカップルのジンクスあるんやで」

「え、そうなの?」

「そっ。…せやから、ずっと一緒や、朝祇」


ぎゅっと手を握られて、廉造の意図を察する。どこまでも朝祇のことを理解しているらしい。朝祇がこの遊園地デートで抱いていた様々な感情を、正確に分かってくれていた。

泣きたくなるのを堪え、朝祇はもう一度廉造に自分から口づけた。


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