水遊び
●夏休み
不浄王との戦いが終わり、いよいよ本格的な夏休みが始まった。とはいっても塾は毎日あるし、むしろ塾の授業が増えて大変だ。
塾の中は地下だからか、そう暑くはなく、塾までの道のりもドア直通なので苦ではない。帰りは徒歩で帰るため、最近は暑さを避けるのを兼ねて授業後に残って勉強するようになった。
そうやって夏を凌いでいたある日、雪男から特別授業だと言われて塾生たちは学園下層の森林地帯にやってきた。以前、林間合宿をして、燐がその力を明るみにしてしまった場所だ。
全員にとって少し苦い思い出のあるところである。
この前は制服だったが、今回は体育着だ。全員半袖とジャージ姿である。しえみも指定の体育着を支給されたらしく、同じ姿をしていた。
あのときよりもさらに暑い中、中央の空き地にたどり着く。燐がかなりの面積を燃やしてしまったため、枯れた木々が中央部には目立つ。
その合間の空間に集まった面々は、雪男になぜか水鉄砲を渡された。
「え、なんなんこれ」
「水鉄砲じゃーん!!」
廉造はコンビニで売っていそうなちゃちな水鉄砲に首を傾げ、燐ははしゃぐ。
朝祇も不思議に思いながら受け取ると、真新しい水鉄砲の構造を確認する。どこにでもある普通の水鉄砲で、空気を入れるためにスライドするタイプのものだ。水は入っていない。
「今から皆さんには、この紙のゼッケンをつけてもらいます。そして、互いに水鉄砲で攻撃しあってください」
「水遊びやないか…」
勝呂は雪男の紛うことなき水遊びの説明に眉を寄せる。しかし、雪男は冷静に続ける。
「ただの遊びでは、もちろんありません。気配を隠し、隙をついて素早く攻撃モーションをかける。そのための訓練です」
そういわれるとなるほど、と思えてしまうのは、相手が雪男だからだろうか。
普通のコピー用紙とビニール紐で作られたゼッケンを渡されて身に着けると、風でヒラヒラと動いて心もとない。
「今回は、バトルロワイヤル式です。普段は助け合うことを求めていますが、互いに隠密行動の力を高めあうため、今回はむしろそういったことはしないでください。それともうひとつ。最後まで残った者には、この焼肉食べ放題券を差し上げます」
「!?!?」
全員の目の色が変わった。雪男がちらつかせる券は1枚。最後に残った1人があれをゲットできる。
「あ、あれは…!」
さらに、燐が券を指さし愕然とする。それを目で追うと、廉造も息を飲んだ。
「あれは、叙○苑!?そ、そないなモンが賞品やって…!?」
なんと天下の叙々○である。しえみは存在を知らないのかよく分かっていなさそうだが、燐や京都組は燃えていた。こんなチャンスはない。
そして当然、朝祇も手首を柔軟させて回りを睨んだ。○々苑となればさすがに本気でいかねばならない。
「水鉄砲以外の武器は使用禁止。使役した悪魔による直接攻撃も禁止です。水を汲む場は森林内のところどころにあります。質問はありますか?……では、スタート!!」
雪男の開始の号令がかかると、走り出す前にそれぞれがじりじりと睨み合いながら後退する。出方を伺っているのだ。
すると、勝呂が京都組と燐、出雲の方を見て言った。
「ええかお前ら!まずは一ノ瀬倒すぞ!」
「はぁ!?」
そして出てきたのは突然の徒党宣言。子猫丸がまず頷いた。
「そうですね…この中で最強なんは麒麟を使役する一ノ瀬君です。最後に残ってもうたら勝てっこあらへん。まずは皆で一ノ瀬を倒さな」
「そうね…まずはあんたたちに同意よ」
「なるほどな!いいぜ!」
子猫丸が勝呂の意図を説明すると、出雲と燐が賛成する。なるほどな、と朝祇は内心納得する。角端をこの水鉄砲に宿せば、水を汲む必要がないからだ。