神様は笑う
●単行本20巻の初詣シーン
ネタバレ注意
柔造と蝮との間に子供ができただけでなく結婚式を行う、というので、急遽塾生たちは京都へ向かうことになった。蝮の友人枠が少なすぎるという切実な側面もあるのだが、実家も何もない出雲や奥村兄弟も特に用事はなく、京都組は帰省の意味も込めて、全員で京都へ行くことにしたのだ。
そうして大晦日に虎屋へ来れば、結婚式ということで集まった志摩家の大家族が大騒ぎで、候補生たちも色々な準備を手伝えば賑やかさはさらに増した。
その夜、日付が変わる頃に、候補生たちは金造の付き添いのもとで伏見稲荷大社へとやって来た。初詣をするためだが、一応仏教の寺である妙陀宗的には良いのだろうか。不浄王を倒してから、あまり気にしないようになったのかもしれない。
参拝客でごった返す参道の中、さっそくはぐれたしえみと燐はもう仕方ないと思うのだが、金造は「どやされる」と言って強引に探しに行った。面倒そうな廉造の隣で、朝祇は白い息を吐く。
「さっむ…」
「今年はより寒いさかいなぁ。大丈夫?」
「ぎりぎりね…」
金造がいなくなったことで、自然と雪男が引率のような感じになったために、前方で雪男が勝呂たちを率いている。子猫丸が抱きかかえる志摩家末っ子の弓がテンション高く話すのを相手する出雲は、心なしかいつもより態度が柔らかい。
キンと張り詰めるような寒さの京都、朝祇はコートに手を突っ込んでマフラーに顔の下半分をうずめる。
「そないに東京と変わらへんやろ。学園なんて海沿いやし」
「なんていうか、冷たい。寒いというより空地が冷たい」
「同じやろ」
「うるさいな」
どす、と廉造の腹に拳を入れると、柔造にバチェラーパーティーと銘打って無理やり戦わされたときの傷に響いたのか呻く。
「そこ…もろにキリク入ったとこ…!」
「そんなんで騎士の称号取れんの?」
「やってあれ一応上二級やで!?」
「はいはい」
適当にいなすと、寒さの中に除夜の鐘が響いてくる。まだ鳴っている鐘の音は煩悩を祓うというが、廉造はそれでは足りなさそうだ。
「今失礼なこと考えとったやろ」
「まさか」
ジト目を向ける廉造に笑顔で答えてやった。
それにしても、人込みはあまり進まず、寒さの中でこのまま待っているのは少しつらいものがあった。人が神と信仰するものの正体を知っている朝祇たちは尚更だ。
そこで、朝祇は廉造のジャケットのポケットに自分の右手を突っ込んだ。何となく温かそうと思っただけだ。廉造は一瞬面食らうが、すぐに自分の左手を同じところに入れる。
ポケットの中で、2人の手が結ばれた。この人込みだ、気づかれやしいないだろう。
指を絡める恋人繋ぎになって、朝祇は少し廉造の方へ体を寄せる。廉造はそれを見てふ、と笑う。
「今年もかいらしなぁ」
「なんだそれ」
一日で変わるものでもなかろうに、しみじみと言う廉造に苦笑する。
やがて、列はゆっくりと進んでいき、やっと朝祇たちの番になった。略式であるが礼をして願いを内心で唱える。意味のないことと分かっていても、頼れるものは頼りたくもなるものだ。
(廉造や皆が無事に過ごせますように)
『誰も聞いていないぞ』
(分かってるよ、願掛けみたいなもん)
そんな朝祇の願いを黄龍が真面目に指摘するものだから、内心で返しておいた。
朝祇と廉造も本殿前を離れると、一足先に終えた勝呂たちがおみくじを引いていた。
「あ、課税対象だ」
「なんちゅう感想やねん」
宗教法人が得るお布施などの寄付金は非課税だが、くじ引きは営利目的とみなされ課税されるのである。世知辛いものだ。
それを口にした朝祇に、廉造が呆れたような声を出した。そんな廉造に、朝祇はふと聞いてみる。
「何願ったの?」
「なんも?形だけや、なんもおらへんし」
「身もふたもないな」
廉造は朝祇と違って何も願わずに来たらしい。まぁそんなものだろうとも思うが、廉造言葉を続けた。
「俺の神様は、いつも横にいてくれはるさかい」
神様みたい、とかつて廉造は言った。家族に関係を告げたあの日の夜のことだ。それはつまり、廉造にとっての願い事は、もう叶っているということで。
「…廉造だけ、特別サービスだからね」
少し照れくさくなって、そう言いながら朝祇は小さくわらった。