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その後、スウェット生地のスラックスを履いて朝祇は塾へ行くことにした。いつもはみんな面倒がって制服を着るし、今日も廉造たちは制服だが、特に規定があるわけではない。
シュラが扮していた山田もパーカーでフードすら許されていた。
寮の玄関で鍵を差し込み、塾へと出る。今日はバタバタしたためギリギリだ。そのため、教室に入ると全員揃っていた。
「おっす!珍しいな、お前らがおせーの」
「遅刻やないやろうが」
燐は尻尾を揺らしながら挨拶をしてきた。夏休みで色々とカミングアウトされてからというもの、すっかり馴染んだ光景だ。だが、今日はそれが気になって仕方なかった。思わず目で追ってしまう。
「一ノ瀬君、どうしたの…?」
すると、朝祇がパーカーのフードを目深に被っているのに気付いたしえみが首をかしげた。それには曖昧に笑って誤魔化す。
「いやぁ、ちょっと、色々ね」
「みなさん、こんにちは」
そこに、ちょうど雪男が入ってきた。朗らかに笑っているのは、今日は悪魔薬学のテスト返却がないからだ。燐の心労がないのだろう。
その雪男に促され朝祇たちもいつもの席につき、いつも通り廉造の隣に座ったが、雪男も「おや?」とやはり疑問を口にした。
「どうかしたんですか?一ノ瀬君」
「あー…ちょっと色々と複雑なことが…」
「どーせメフィストだろー?」
するとそこへ、入り口からシュラの呆れたような声がかけられた。全員の視線がそちらに向かい、シュラは軽く手をあげて挨拶をする。
「あたしんとこにも今朝来てさ〜、スルメ投げ付けてやったよ」
にゃはは、と笑うシュラに、朝祇はこのくらい強かになれたら、なんて思わずにはいられない。
「そしたら『一ノ瀬君は見事に嵌まってくれましたのに、面白みがないですね』なんて言いやがんの!だから今日は一ノ瀬がどんな有り様なのか拝顔しに来たんだ〜」
「そういえばあなた今日授業ないじゃないですか!このために来たんですか…?」
雪男は脱力したように名簿を教卓に置く。やはり心労からは解放されないようだ。
「んじゃ、さっそく」
そしてシュラがそう楽しげに呟いた次の瞬間、シュラは一瞬で距離を詰めてフードを外して見せた。
驚いて固まると、シュラも目をパチパチと瞬かせ、数秒後、ブッと噴き出して大笑いし始めた。
「あっひゃっひゃっひゃっ、おっかし〜!よく似合ってんじゃん、ぶふ、」
「笑いすぎじゃないですかねぇ…!」
予想通りの反応に、予想通りの怒りが沸く。
一方で、雪男は驚いて呆けており、しえみは目を輝かせ、出雲はため息をつき、宝は無言で、燐はシュラのように笑いだした。
「猫耳じゃん!マジでウケるな!!」
「ウケねえわ!!」
「可愛いね〜」
「やめて杜山さん」
「ホンマかいらしなぁ〜」
「廉造うっさい」
そうやって一気にざわつくと、雪男がパン、と手を叩く。注目を引いた雪男は、「とにかく、」と事態の収集に乗り出した。
「一ノ瀬君は恥ずかしいようでしたらフードをしててもらって構いません。シュラさんは帰ってください。そろそろ本鈴です、授業を始めますよ」
「は〜い」
シュラは伸びをしながら何事もなかったかのように教室を出ていった。他の塾生たちも教科書を机に出していく。
朝祇はフードをしようか迷ったが、バレた以上は必要ないだろうと開き直ることにした。
スラックスに隠していた尻尾も出してしまい、窮屈さから逃れられた。
「奥村はずっとこんなん隠してたのか…」
「ん?ってうわ、尻尾まであんのかよ!ウケるな!」
「ウケねえわ!!」