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●帰省
宇治でデートする話
朝祇と廉造が2人の関係を両家にきちんと説明した次の日。
前の晩に朝祇たち自身も愛を確かめ合ったこともあり、何となくふわふわした気分である。
「せっかくならデートしてかへん?」という廉造の誘いに乗り、東京に帰る前に2人は京都でデートしていくことにした。あらかじめ特急券のみ購入していたため、新幹線に乗れないということもないし、自由席だから時間の指定もない。
朝食を朝祇の家で食べてから、真由美に挨拶をして2人は朝祇の家を出て歩き始める。晩秋の爽やかな風が吹き、市内の騒音が高い空に響いているようだ。
「どこ行く〜?」
「あ、なんだ。決めてたのかと思った」
京都駅の方へ向かいながら聞いてきた廉造に、てっきり廉造が何か考えているのかと思った朝祇は考える。ベタに四条河原のあたりか、とも思うが、来るときの新幹線から降りたときを思い返して迷う。
「紅葉シーズンやさかい、あんま観光地行くのはなぁ」
「そうなんだよなぁ」
紅葉真っ只中のため、外国人や老人たちが大挙して押し寄せているのである。年中大量の観光客がやってくる街ではあるが、「そうだ京都行こう」と思うのは春と秋。バスはほとんど満員だし、店もどこも並んでいる。
「ん〜…あ、せやったら、宇治でも行こか。不浄王んとき行きたい言うとったやろ」
「よく覚えたな…でもいいね、宇治にしよ」
すると廉造は、夏に塾生で観光をしようとなったときに呟いた朝祇の発言を覚えていたらしく、宇治へ行くことを提案した。宇治ももちろん有名な観光地であるし、秋は特にそれなりに混むのだが、市内よりはマシだった。
***
電車で宇治駅に降り立つと、やはり東福寺などと比べて降りる人は多くはない。この沿線で言えば、紅葉で有名な東福寺や伏見稲荷がメジャーであり、宇治はそれらほどのコンテンツはないと思われているのだ。
和風の駅舎を出てロータリーに出ると、廉造はスマホで時間を確認する。
「この時間ならそないに待たなくても入れるやろし、抹茶パフェでも食べてく?」
「そうだなぁ、東京で食べようとも思わないし…そうしよっか」
午前の開店時間頃のため、有名な和菓子屋に向かう。駅からほぼまっすぐ行ったところにある店だ。非常に有名なため、定番中の定番だ。地元民こそ行かないタイプの店だが、おいしいものはおいしい、特に反論もなく2人は抹茶スイーツを食べることにした。
抹茶パフェを食べ、熱いほうじ茶で体を温めなおしてから2人は店を出てさらに歩き出す。
少し歩いて平等院の参道の商店街に入ると、漂ってくる茶の匂いに朝祇はほっと息をつく。
「やっぱほうじ茶だよなぁ…」
「どないしたん?」
店頭の和菓子の幟を興味なさそうに見ていた廉造は、そんな朝祇の言葉にぱっと意識を向けてくる。洋風なものが好きな廉造はあまり琴線に触れないこの参道で、朝祇にははっきりと関心を示してくれるのがくすぐったく感じる。
「いや、東京にいる頃は京都人って毎日抹茶飲んでるんだと思ってたから、ほうじ茶ばっか出てくるのが意外だったんだよ。でもやっぱ納得っていうか…うん、ほうじ茶最高」
「あはは、確かに、そう思われるんも分かるわ。俺もほうじ茶が一番好きいうか…なんか水みたいなもんやさかい、好きや嫌いやもあらへんわ」
綺麗な石畳の道を観光客に合わせてゆっくり歩きながら、そんなたわいない会話を続ける。ほうじ茶飲みたい欲が出てきたのを察したのだろう、廉造は「そならこっち行こ」と朝祇の手を引っ張った。
人込みが減った参道の横道を行くと、宇治川に出る。赤い欄干の橋がかかり、途中の中州をまたいで対岸にまっすぐ伸びている。
そこで手は離れてしまったが、人目もある、仕方ないと離れた手から視線を逸らし冷めた温もりを気にしないようにする。しかしそんな様子はお見通しだったようで、廉造はくすりと笑った。
「あんまかわええ顔せえへんとって」
「…うるさいな」