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●本編完結後
「冀うは玄冬が豪水」
詠唱して銃に角端を宿すと、朝祇は銃弾を燃え盛る炎を纏った悪魔に放った。一発だけ外して、背後の洒落た壁紙に当たる。洋館らしい、サロンルームの広い空間で外すのは少し悔しい。
炎系には水、簡単な定石だ。朝祇が発砲する傍らで廉造が錫杖によって近接戦を行う。
ここは東京郊外の洋館で、廃墟と化している。悪魔の研究をやっていたオカルト趣味の金持ちが暮らしていた屋敷だったらしく、家主の死後、空き家となってからは下級悪魔の巣窟となっていた。
祓魔師認定試験の日程が早まることが発表されたことに前後して、全国的に、そして世界的に悪魔の活動が活発化していた。ここもその一つで、候補生たちも祓魔師ととともに簡単な任務に駆り出されることが頻繁になっていた。
引率の祓魔師は屋敷で一番力を持っていると思われる悪魔を討伐しに行き、朝祇と廉造はひたすらザコ狩りをしている。
「よし、廉造とどめ頼む」
「了解」
廉造は簡単に錫杖を薙いで、悪魔にとどめを刺した。すでに5体は祓っている。
「本体は大丈夫かな」
「メインの悪魔かて下級やろ、中級の祓魔師さんやし問題あらへんって」
「ま、そうか。今んとこ、気配的には他のザコはいないっぽいけど…」
「…おん、せやな、俺も何も感じひんさかい掃討完了でええんちゃう?」
たった3人でこの任務にあたっているが、正直不浄王やイルミナティでの戦いに比べたらシューティングゲームにもならないような任務だ。とはいっても、そういった慢心は良くない。気配を巡らせて警戒は怠らなかった。
「…、廉造、あの部屋…」
「ん…?うわ、なんやあれ」
ふと、ちょっとした気配を感じて廊下を進んでみると、観音開きの扉に大きく魔法円が描かれた部屋があった。禍々しい気を放っている。
「事前に黄龍に下級以上の悪魔はいないって言われてるし、開けても中には大したものはいないはず」
「じゃあ開けてみよか」
廉造はそう言うと、扉の横に壁を背にして立つ。反対側の扉の横に朝祇も立つと、廉造がひとつ頷いた。その合図とともに、廉造は錫杖で思い切り扉をぶち開けた。
すぐに2人は扉の前に立って部屋の中を見るが、中には誰もいなかった。悪魔の気配もない。
「…魍魎もいないな」
「ホンマや、廊下とかはぎょうさんおるんに」
「まぁ何もいないならいいや、合流地点に…」
踵を返そうとしたそのときだった。
突然、少し離れたところの廊下の天井が、轟音とともに崩れ落ちて来た。蜘蛛の巣が張ったシャンデリアが落下する甲高い音が響き、天井がどんどんこちらに向かって崩れてくる。
「は!?」
「朝祇、いったんこっち退避や!」
恐らく上の階で戦っている祓魔師の戦闘によって、廊下が崩壊したのだ。
ペースがかなり速いため、廉造は咄嗟に朝祇を連れて今しがた開けた部屋の中に飛び込んだ。
すると直後、扉が勝手に閉まり、外からは瓦礫が落ちる大きな音だけがくぐもって聞こえて来た。
「…え、なんで閉まった?」
「……嫌な予感するで」
2人とも扉は閉めていない。廉造は懐中電灯をつけると、扉に向かった。朝祇もそのあとに続き、廉造が扉のノブに手をかけるのを見た。
「…開かへん」
「瓦礫のせいとかじゃ…ないよな」
「鍵とかでもない、ドアノブがうんともすんとも言わん…僅かに力も感じるし、十中八九表の魔法円が発動したんやろ」
「マジかぁ…」
2人が冷静に状況を確かめるとため息をついた。落ち着いているのは、どうせ何とかなると分かっているからだ。2人とも、実力は上級に匹敵するとメフィストにお墨付きをもらっている。