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次に候補生たちがやって来たのは、伏見稲荷大社だ。東寺駅から京都駅に出て、JR奈良線で稲荷駅にて降りる。意外にもずっと東京大田区育ちの燐は都会っ子だったため、8両以下の短い編成の電車や、ボックス席のある車両に興奮していた。都内でも見ることができないわけではないが、そもそも燐は電車をほとんど使わなかったらしい。
興奮のあまり、やまと路快速に乗りそうになっていた。稲荷には止まらない。
今日はあちこち行く予定なのもあって、伏見稲荷大社の途中までで引き返す予定だ。さっそく大鳥居をくぐり、朱色の鳥居が並ぶ千本鳥居に入った。
「お〜!すげえな!」
「すごいねぇ!」
燐としえみはさっそく興奮し、すたすたと鳥居の間を進んでいく。子猫丸と勝呂はその後ろをゆっくりと爺さんたちのように続いた。
出雲は白狐たちを呼び出し、彼らの聖地ともいうべき鳥居の中をともに歩き出す。宝や雪男も一緒に鳥居の間を進んだ。
一番後ろをちんたら歩くのは、廉造と朝祇。木々と鳥居の間から漏れる日差しを浴びながら、はしゃぐ面々を眺める。
「あいつら元気だなぁ」
「せやなぁ」
「久しぶりに宇治でゆっくりしたかったけど…まぁ、こういうのもありか」
「このメンバーでっていうんが新鮮やね」
「写真とってアイコンにしとこ」
SNSの画像用に写真を撮ろうと立ち止まると、それに気づくのが遅れたのか少し廉造が階段を進んで、こちらを振りかえる。写真と撮り終わると、木々が風に揺れて木漏れ日が鳥居の間から差し込む。それが爽やかで心地よく、目を細めた。
一方の廉造は、そんな朝祇を見て思わず息をついた。なんだか、あまりに神聖なものを見ているような気になったのだ。
不浄王の瘴気から市街地を守るために五神の守り地を発動した際、朝祇は黄龍の力を最大限に引き出すために黄龍を完全に体に憑依させた。そのときに、それまでは全身に浮かんでいた魔障の模様は消え、代わりに左胸付近から額にかけて、左目を経由して唐草模様のような、白や赤、黄や青などのカラフルな模様が浮かんだ。左目は金色に虹彩の色が変わり、もとの顔だちの恐ろしいほどに綺麗なこともあり、人知を超えた感じがするのだ。
ちょうど、木漏れ日が鳥居の間から差し込み、朝祇の顔を照らす。心地よさげに細めた目は、左目が金色に輝く。背景の朱色の鳥居が並ぶ様子も相まって、人ならざる者のようにも見えた。
「なんか…朝祇、綺麗過ぎて怖いわぁ…」
廉造は後ろに来ていた勝呂につぶやく。勝呂は朝祇を見て首をかしげる。
「…はぁ?」
「ホンマ、なんか神様みたいやし」
「…まぁ、人やないみたいに見えるなぁ」
「そーですやろ?はぁ〜、尊い…」
ため息交じりに恍惚を言う廉造に、勝呂は引いたように呆れる。そこまではさすがに思えない。結局は同じ男だし、意外と雑で適当なところがあるのもこの2年でよく知っている。
廉造たちと違い、勝呂に気を遣う必要がない分、わりとがっつりからかってくるのも朝祇の特徴だ。
「…何やってんの?2人そろって」
「朝祇が綺麗で尊いっちゅう話しとったんや」
「キモ…お前らそんな話してたの?」
「いや俺はちゃうで!」
勝呂が焦ると、廉造はデレデレと笑いながら朝祇に抱き付く。階段の段差もあって、朝祇は廉造の胸元に顔を押し付けられていた。
「かわええなぁ…!」
「ん〜…てか疲れたんだけど」
「おんぶしたろか?」
「本気で言ってる?」
「夜魔徳君の力使うんも吝かでないで」
「イチャイチャすな」
そしていちゃつき始めた2人に、勝呂はイラッとして言うが、朝祇は悪びれずに勝呂に反論する。
「そんなプリプリすんなよ。だから童貞なんだよ…」
「んなっ!」
何が神聖な感じだ、と勝呂はぶち切れながら、逃げ出す2人を追いかけた。