雪の日


●1年前
柔造(24)+金造(19)+廉造(14)×夢主(17)



京都はあまり雪が降らない。
かつて清少納言は『冬はつとめて』と言ったが、最近はほとんど市内で積雪をともなう降雪が起こることはない。
寒波がやって来たときや、西日本で爆弾低気圧などが発生したときくらいである。

明斗が京都にやって来てから6年が経ったが、その間に雪が積もったことはなかった。日本海側の方はそれなりに降ったようだが、市内での積雪は見たことがなかった。

それが今年、数十年に一度の大寒波がやって来て、九州から東京まで、あまり雪が降らない太平洋側でも大雪に見舞われた。
京都も同様で、朝起きると底冷えとともに外が真っ白になっていた。室内であっても、吐いた息が白い。

2月中旬という最も寒い時期ということもあり、雪が溶けず積もるのも早い。


明斗は急いで祓魔師の制服に着替えると、朝食をかきこんで出張所にやって来た。出張所の中庭まで来れば、そこは真っ白な雪が柔らかそうに積もっていた。


「おぉ…めっちゃ積もってる…」

「どないした?」


すると、後ろから柔造がやって来た。明斗より早く出勤することになっていたようだ。


「雪、積もってるの京都で初めて見た」

「せやな、随分久しう降っとらんかったさかい、明斗が見るんも初めてやんな」

「…、外出るけどいいよね?」

「え、ええよ…?」


柔造は困惑しているが、明斗は気にせず持参した長靴に履き替えて中庭に出る。ぼす、と雪に埋まり、真っ白な雪に自分の足跡が残っていく。
手で掬って見れば、刺すような冷たさを感じた。


「…あー…明斗かぁええなぁ…」


ニコニコとしている柔造を放っておいて、明斗は掬い上げた雪を固めて近くの岩に置いてみた。ちゃんと崩れずに乗る。
おお、と思っていると、ドタドタと特有の足音が聞こえてきた。そしてやかましい声もする。


「おお〜、ホンマに積もっとるやん!」

「おっ、おはようさん金造」

「はよ!柔兄!明斗も!」

「おはよう金兄」


やってきた金造は朝からやかましく庭を見て、靴を履いて飛び込んできた。そして雪を思いきり掬ってばら蒔いた。空中に巻き上げらた雪の欠片が散り、それが明斗の衿から首筋に入ってきた。


「っ、冷たっ…!金兄…」

「ん?どないした?」

「くらえ!」


冷たいその不快感に、明斗は先程岩に置いた雪の塊を金造に向かって投げた。雪は金造の前衿から胸元に直撃し、少し内側に入ったのか「おわっ」と悲鳴を上げた。


「明斗…ようやってくれたな…!」

「金兄から仕掛けたんだからね」

「じゃかぁしい!報復や!」


金造はそう言うと、足元の雪を素早く掬い上げて固め、投げてくる。その俊敏な動きについていけず、もろに顔面に食らってしまう。冷たい雪の直撃に一瞬息が止まった。


「…ありの〜ままの〜」

「はっ、まさか明斗…!?」


かの名曲を 口ずさむと、金造は察したらしい。逃げの姿勢をとったが、遅かった。

明斗は風の力を使って周囲の雪を巻き上げ、かの名シーンのように金造に局地的な暴風雪をぶちかました。


「おわぁあ!?」

「どうだ金兄……あっ、」


しかし思いがけず、風は柔造にも当たってしまった。柔造に当たる頃にはフワァ…という程度のものではあったが、無言のその額には青筋が浮いていた。


「ウチのお姫様は随分やんちゃやなぁ?」

「や、ごめ、わざとじゃないんだって…!」


柔造はこういうとき聞く耳を持たない。ズカズカと中庭に入るなり、何やら詠唱して雪の塊を空中に無数に浮き上がらせ、銃弾のように打ち出してきた。
当たったらまずい、と直感的に判断し、風によってそれを金造に流す。先程の攻撃でついた雪を払っていた金造は避けることができず、再び悲鳴を上げてそれを食らった。


「さっきからようやってくれるやんけ明斗!!」

「金造援護せぇ!」


そしていつもの、容赦ない上二人の連携プレーが始まった。詠唱による結界や浮遊によって自在に雪を操り、こちらの攻撃を無効化する。
分が悪い、と後ずさると、廊下を歩く末の弟を見つけた。


「金兄忘れもん〜って、何しとん!?」

「廉造!お前は俺の味方だよな!?」

「…えー…めんどいけど、まぁアキ兄が言うんなら」


廉造はそう言って金造の忘れ物らしい巾着を廊下に放り、中庭に入って後ろから柔造たちに雪を投げた。それをすかさず明斗が風で強化し、鋭角に二人に当てる。


「挟み撃ちなんざ卑怯やで!」

「二対一に言われたくない!」


柔造にそう叫び返すと、二人の足元の雪を大きく巻き上げて視界を塞ぐ。その隙に廉造が集めていた大量の雪を空中に放り投げ、それを明斗が風によって垂直に二人に落とす。
勝負あったな、と思った瞬間、雪なんかよりも竦み上がる怒鳴り声が響いた。


「何やっとんねんお前らァ!!」


父、八百造の怒声が、閉幕の鐘となった。


そうしてこってりと八百造に絞られた四人は、仲良く出張所の雪かきをさせられたのだった。


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