おかえり
●2年前
金造(18)×主(16)
その年の春、明斗は心待ちにしていた日がようやく来たことで浮き足立っていた。指摘こそしないものの、一緒にいた柔造には苦笑されてしまった。
今日は、金造が半年以上振りに帰ってくる日だった。それも、これからはもう東京へ戻ることはない。この3月に金造は学園を卒業したからだ。寮を引き上げて、今日新幹線で京都へと帰ってくる。
いつもは長期休暇の度に帰省していたのだが、この年末年始は祓魔師認定試験があったため、金造は帰省しなかった。2年の頃、明斗の誕生日を初めて祝ったその翌月に下一級に騎士で合格。そして卒業前のこの1月に中二級に合格し、詠唱騎士の称号を取得した。頭が良くない金造は、詠唱騎士取得のため元旦も戻らず、学園で勉強に明け暮れたらしい。
そのため、会うのもお盆以来7か月振りくらいだし、これからは京都出張所で一緒に働くことになるため、明斗は テンションが上がっていた。少し寝不足なくらいだ。
そんな状態でいつも通り仕事をこなし、明斗は柔造と帰宅する。もう金造は着いているはずだ。2人で居間へとやって来ると、そこには金造が横になって寝ていた。
「あれ、寝てる」
「帰っとったんやなぁ」
左腕を枕にして横向きに寝ている。イメージ的には大の字で鼾でもかいていそうな男だが、恐らく軽く寝るつもりでこの体勢を取ったのだろう。
「明斗に会うんが楽しみで寝れへんかったて言うてたで」
「え、そうなの?」
「おん。あっ、これ秘密やで」
大方内緒にするよう金造から言われていたことのはずだ。朗らかに笑いながら柔造はあっさりとバラし、「おとんとこ行っとるな」と言って廊下を歩いていった。
残された明斗は、気持ち良さそうに寝ている金造を見ると寝不足を感じる。まったく同じ理由で寝不足になっているのが何だかくすぐったく感じられた。
ちょっとだけ自分も寝てしまおう、と明斗は何となく思い至り、そっと金造の側に腰を下ろす。そして、金造の横で明斗も右腕を枕にして横たわった。すぐ目の前には金造の鳩尾あたりがある。くっついてはいないものの、すぐ側でその熱を感じた。
5分だけ、そう思って、明斗は 心地よい微睡みに沈んでいった。
金造が目を覚ますと、日は傾いて夕暮れになっていた。この時間まで寝るつもりはなかった。夕方にうたた寝をするとどうも体がだるく感じられて不快だ。時計を確認しようと視線を向けると、視界の中に見慣れた姿があって動きが止まった。ついでに息すら止まる。
金造にくっつくようにして寝ているのは、明斗だった。静かに寝息を立てる最愛の弟に、会いたくて寝れなかったことを思い出す。同時に、こんな可愛いことをしてくるとは、と悶えたくなった。しかし迂闊に動けない。
慎重に観察し、寝息からしてどうやら深く寝ていることを確認する。それなら、と少し体をずらすと、ゆっくり明斗の頭を持ち上げて腕を伸ばしてやり、代わりに自身の左腕を差し込んだ。腕枕をしてやると、明斗は自分から胸元にすり寄ってくる。起きてはいない、無意識だ。
「アカン…アカンて……」
うわ言のように呟くと、理性を総動員して目を閉じる。このままでは起こすのも構わず抱き締めてしまいそうだった。腕の中の温もりを感じながら、金造は無理やりもう一度睡魔を呼び寄せた。
明斗はゆっくりと意識を浮上させた。特に夢などは見ていないが、どうやら結構寝てしまったらしい。辺りを確認しようと目を開けると、先程よりも近いところに金造の体があった。しかも、枕にしているのは明斗よりも太くて筋肉質な金造の腕だ。いつの間にか、腕枕をされて抱き締められるように寝ていた。
視線を上に上げると、目を閉じてまだ寝ている金造の端整な顔があった。半年見ない間に、また大人びたようだ。高校生というのは成長期著しく、置いていかれるような少し寂しい気もしたが、思い直す。
これからは東京へ戻らず、ずっと京都で一緒に生活するのだ。また家族が揃う。去年の夏に、「行かないで」なんて言ってしまったこともあるが、もうあの寂しさともお別れだ。少なくとも、定期的にあれを経験する必要はなくなるのである。そう思うと嬉しくなった。
「これからは、ずっと一緒か…へへ、やった」
つい目の前の胸板にすり寄ると、「ん"ん"っ」という奇声が聞こえてきた。間違いなく金造のものだ。
まさか、と思って恐る恐る顔をあげようとすると、その前に思いきり抱き締められた。
「ああああもおおお我慢できひん!!かいらしすぎやろ!!!」
「へ……起きてたの」
「起きてたわ!全部聞いてもうたわ!!はぁ〜〜アカン!!この!!破壊力!!」
恥ずかしさよりも、騒ぎ立てる金造に引いた。ついにバカが致命的なレベルになってしまったのだろうか。
金造は一頻り騒ぐと、明斗の頭に配慮してゆっくり体を起こす。横になったままの明斗は、上体を起こして片膝を立てて座る金造と目を合わせると、ようやく恥ずかしさが沸き上がってくるのを感じる。よりによってあんな独り言を聞かれるとは。
「〜〜〜言ってよ起きてたなら!!」
そう叫んで一気に起き上がる。すると、その急な姿勢の変化がいけなかったのか、くらりと視界が揺れる。
「…っ、と、大丈夫か?」
しかし金造が素早く察知して、前へ引っ張ってくれた。おかげで金造の肩に頭を預け、その体にしがみつくことで 何とか目眩をやり過ごせた。
その温もりも、視界の金髪も、ワックスの匂いも、全部全部懐かしかった。やはり、半年は長かったのだ。
「…おかえり、金兄」
「ただいま、明斗。俺もこれからは一緒や思うたら嬉しいで」
ぽんぽん、と後頭部を撫でられる。素直に頷くと、その広い背中に腕を回した。