エッチなこととは


●3年前
柔造(21)×主(15)



明斗が初めて誕生日を祝われ、年末大掃除で金造の葛切りフェイントに半泣きになった後の1月。前月が濃かったからか、落ち着いて感じられる。
凍える寒さにあっても風の子らしく、子供たちは外を駆け回っていた。
ただ、そんな遊び方にすでに辟易としていたのが、弟たる廉造だった。この春に小学校を卒業する。廉造は末弟だからか早熟で、早くもおじさんのように「え〜外寒いんやけど〜」と炬燵に籠っていた。

そんなある日、炬燵で廉造と明斗がぬくぬくとしながらテレビを見ていると、ドラマ内の男女が寝室で絡み始めた。海外ドラマなので、金髪の美男美女だ。
それを、廉造は食い入るように見つめていた。何がそんなに面白いのかと明斗も見てみるが、男性が女性の腰を抱き寄せて顎を掬い、熱烈なキスをかましているだけだった。そのまま2人はベッドへと転がる。


「…アキ兄」

「ん?」

「アキ兄は、その、どうしとるん?」

「何を?」

「…処理?」


珍しく言い淀む廉造に首を傾げると、廉造も同様に首を傾ける。沈黙が数瞬続くと、廉造は恐る恐る口を開く。


「…ひょっとして、テレビん中でヤっとること、分かってへんのん?」

「…やってること?」


テレビに自然を戻すと、布団を被った俳優が女優に上から覆い被さっている。何の表現だろうか。喋るわけでもない。


「…なんだこれ」

「……あー……やっぱそうかいな……」

「え、なに」


廉造は宙を仰ぐ。いったい何なのか聞いてみても首を振るだけだ。廉造は知っていて明斗は知らないこと。小学生なら当たり前のように知っているのだろうか。


「あんな、アキ兄。テレビでやっとることは、エッチなことやねん」

「…エッチなこと」

「せや。柔兄とか金兄とかにやられたら抵抗して、助け呼ぶんやで」

「そ、そうなのか…」

「覚えといてや!」


廉造がそこまで言うなら覚えておこう、と明斗は神妙に頷いた。テレビから聞こえる濡れた声とのギャップのシュールさに気付ける者は、生憎いなかった。


***


それから少しして、次年度のことに向けた会議が出張所で開かれた。中級以上の祓魔師が参加する、かなり大規模なものだ。受かったばかりの金造までいる。
とはいっても形式的なものでしかなく、全員事前に聞いていたことばかりなので、確認作業である。

退屈な会議が終わると、解散し、一斉に皆立ち上がる。各々喋りながら持ち場に帰るのだ。
明斗も両隣の柔造と金造とともに席を立つ。

すると、睫毛でも入ったのか、左目に痛みが走った。


「いてっ」

「どないした?」


すかさず柔造が声をかけ、金造もこちらを向く。一瞬で反応してみせた2人に苦笑した。


「睫毛入ったっぽい…それだけ」

「擦ったらあかんで」


柔造は擦る明斗の手を止めると、心配そうに覗き込んできた。そんなに気にすることでもない、明斗は「大丈夫だって、」と避けようとするも、柔造に腰を抱き寄せられた。柔造の左手が腰に回り、ぐっと距離が近くなる。そして、顔を上げさせようと右手が明斗の顎を掬った。

そしてその瞬間、明斗の脳裏にパッとあのドラマが浮かんだ。既視感を感じたのだが、同時に、廉造に言われたことも思い出す。
これは、いわゆるエッチなこととやらだ。ドラマの映像と寸分違わない。
ついに、明斗は口を開く。






「じゅ、柔兄っ、エッチなことすんの…?」

「…………………………へっ?」


しかしまさかこんなところでエッチなことをする気なのかと驚く。致される前に廉造に言われた通りにしようと、抵抗を口にした。


「やめて柔兄!エッチなことしないで!!」

「いや、ちょ、待て、なんやそれ、」

「だ、誰かっ!!」

「おっ、おい!!」


抵抗し助けを求める。言われた通りにしてみせた。柔造は慌てふためく。そんな2人に、冷気を纏わせる人物たちが近付いた。


「どぉゆうことなん、柔兄…?」

「説明してもらおか柔造」

「おのれ申ゥ…!ついに手ェ出しよったな…!?」


金造、八百造、蝮が怒りに顔を染めてやって来る。静まり返った会議室の祓魔師たちも、何事かとこちらを見ていた。


「いや、ちゃうねん!そういうんやななくて…!!」


まさか柔造が少し前に明斗に自慰の仕方を指南したことを思い浮かべて勝手に焦っているとは露知らず、明斗は状況が読めずに首を傾げていた。


「明斗!なんやエッチなことて!!何されたんや!!」


そんな明斗に金造は詰め寄る。焦りを顔に浮かべた様子に、やはり明斗はよく分からなかった。


「特に何もされてないよ?ただ、海外のドラマ見てたら、廉造がこうされたらエッチなことだから、助け呼べって」

「えっ、そーなん?」


そこで、素直に事情を説明した。すると、金造は拍子抜けしたようになる。
柔造は一瞬ポカンとしたあと、突然憤怒の形相となった。八百造と蝮も、怒りから呆れに顔が変わる。


「あいつ…覚えとれ…!」


その夜、家に廉造の悲鳴が響き渡ったのは、言うまでもない。


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