エイプリルフール
●2年前
柔造(23)、金造(18)×主(16)
25ページ後
金造が帰ってきて1週間ほど、ようやく年度が変わり、4月1日となった。
明斗はふと、今日がエイプリルフールと呼ばれる日だと気付いた。存在を知らなかったわけではなかったのだが、思えばこれまでこの時期はそんな余裕がなかった。今年は金造も認定試験を終えて戻っていて、どことなく余裕がある。
だから、1回やってみようかと思うようになった。普段言えないことを嘘に交えて言うという意味もあるらしい。また、ついた嘘は1年間叶わないという。
嘘でも嫌いとは言いたくなかったため、それならば、と明斗は考えを固めた。
***
午前中、出張所の廊下にて、会議を終えた警邏隊と祓魔隊が解散して大勢歩いていた。その中に兄たちを見つけ、明斗は駆け寄る。
「柔兄、金兄」
「おっ、どないした明斗」
柔造はいつも通りとして、金造はいよいよ正式に出張所の特徴的な制服を着ていた。学園にいる間は、下級祓魔師として日本支部に所属していたが、卒業してから京都出張所配属となり、今年度からこの仏教系祓魔師の制服を着るようになったのだ。
「似合ってるね」
「せやろせやろ〜」
「そぉか〜?まだ着られとるやろ」
柔造がニヤリとしてからかえば、金造は「んなこたないわ!」と軽くどつく。
この流れでかましてみよう、と明斗は口を開いた。
「あの、さ……」
「ん?」
笑顔のまま柔造が促す。すぐにバレるだろう、と明斗は気軽な気持ちで言ってみることにした。
「俺さ、実は…来週から日本支部所属になるんだ。だから、東京行くことになる」
こんな年度始めに異動などありえない。すぐにでも分かる嘘だ。
「…えっ、えっ、ホンマなん、えっ!?」
「明斗…なんでそないなこと…っ!」
―――すぐ分かるはずなのだが。
「東京て、んなこと初めて聞いたんやけど!?」
「ど、どうにかならんのか…!?」
金造は慌てて叫び、柔造は焦って肩を掴んでくる。まさか信じるとは思わなかった明斗は、つい笑いそうになって俯いた。
「…っ、父さんに、聞いて…!」
「っ、行くで金造!」
「おん!」
笑いを堪えたからか、少し声が震えてしまい、それが泣いているかのようで意図せずして信憑性を高めてしまった。2人は意気込んでドタドタと歩き出す。
「信じるとはなぁ…追い掛けよ」
急速に遠さがる2人の背中をそっと追い掛ける。2人のリアクションを見ずにはいられないからだ。
気配を消し、まるで任務のときのように廊下を歩く。間を開けていたため、2人が八百造の執務室に入ったところで明斗も追い付いた。
障子の隙間からこっそりと中を覗き見る。障子に目ありとはこのことだ。
「おとん!」
「な、なんやけったいな声で…」
「明斗が日本支部所属になって東京行くてどういうことなん!?」
金造は諌める八百造の言葉も聞かず、 ヤーさんか何かのような剣幕で訊ねた。その内容に、八百造は無言になる。驚いているのだろう。
「…何の話や?」
「明斗が来週から東京行くて聞いたんやけど!!」
「そないな話あらへんぞ?だいたい、年度始めに異動なんてあるか」
「……え?」
2人の呆けた声が落ちる。八百造も一瞬沈黙すると、思い当たったように「あぁ、」とカレンダーを指差した。
「エイプリルフールいうやつやないか?」
「……エイプリル」
「フール……」
揃ってカレンダーを見る2人に声を殺して笑うと、気付いたらしい八百造に呼ばれる。
「明斗、おるんやろ」
「はい……くく、」
笑いながら障子を開けて中に入ると、ようやく理解したのか2人は徐々に怒気を纏わせていく。それだけ本気で焦ってくれたのだなぁ、と思うと嬉しくなった。
「ほぉおお……やってくれよったな、明斗……」
柔造がゴキッと手首を鳴らす。その拳骨が落ちる前に、明斗は飛び付くように2人に抱き着いた。
「おわっ、」
「…っ、とぉ…なんや明斗」
2人は難なく明斗を受け止める。明斗はきちんと事の顛末を明かし始めた。
「俺さ、エイプリルフールって一度やってみたくて」
「せやったら、『金兄嫌い〜』言うてホンマは好き、みたいな可愛いげあるやつにしてくれりゃあ良かったんに」
金造が言うことももちろん考えた。可愛いげがあるかは別として、それもひとつの手だった。
「嘘でも嫌いって言いたくなくて。でもそういう感じが良かったからさ。エイプリルフールでついた嘘は叶わないっていうから、2人とずっと一緒に働きたいなぁって思って、これにした」
叶って欲しくないことを嘘にする、それならば、明斗は離れ離れになってしまうという嘘にした。本当はずっと一緒にいたいのだという気持ちを伝えることもでき、なおかつ離れ離れにならないという願掛けのようにもなる。
「早く3人で任務してみたいなぁ」
「〜〜〜!!かいらし過ぎや!!」
話し終えるなり、金造がガバリと抱き締めてくる。痛いくらいに抱え込まれ、さらに頭を柔造に撫でられる。
「俺の弟がこないにかいらしいわけあったわ」
「……?」
朗らかに笑う柔造に髪をぐしゃぐしゃにされ、金造にぎゅうぎゅうと抱き締められる。この少しぞんざいな、けれど優しさがたくさん伝わってくる2人のスキンシップが好きだった。
「分かったからはよ仕事戻れ」
そんな3人に、八百造は仕方ないとばかりに優しいタメ息をついたのだった。