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やがて新幹線は二時間ほどで東京駅に到着した。車窓は横浜あたりから都会めいていたが、品川を過ぎると超高層ビルが立ち並ぶ光景が延々と続いていた。
その終着に着いてホームに出ると、柔造について乗換口に向かう。同じ列車から降りてきた乗客たちはスーツ姿ばかりだった。
ホームから乗換口に切符を二枚通すと、乗車券だけが出てくる。乗換口の外はもう在来線の東京駅だ。
上越や東北に向かう新幹線の改札からも次々と人が吐き出されては入っていく。京都駅も日本最大の観光地だけあって人はすごいが、ほとんどサラリーマンで埋まる様子は圧巻だ。
さらにそこから在来線ホームへのエスカレーターや階段が並ぶ大きな通路に出ると、そこは大勢の人々が行き交うカオスな空間だった。ほとんどの人は無口なのに、ヒールや革靴の音が木霊して騒がしい。柱や各ホームからの流れによって、通路を歩く人々は複雑な流れをつくっている。
それに気圧されて、つい柔造にかなりくっついて歩いてしまう。
「どないした?」
「や……人すごいなって……」
「はぐれたらアカンで」
自然な動作で柔造は明斗の肩を抱いて進む。恥ずかしい気もするが、それどころではないのでされるがままだ。
人込みの中を山手線のホームに向かう。噂通り、丸い緑の路線だった。多くの人々に合わせてホームに出ると、ちょうど山手線が入ってくる。車内はそこそこ混んでいて、ホームには多くの人がいる。例の満員電車だ。
「9時代やし、まだマシな方やで」
「えっ…」
たまに京都市内のバスも満員で混むことがあるが、やはり東京のそれは比にならない。
無言の人々に押されるようにして車内に進むと、さらに後ろからも押される。とても人に対してこんな強さで当たりに行くことなどないため、無意識に踏ん張ろうとしてしまうが、柔造に引っ張られた。
そして、柔造にしかと抱き締められる。一瞬恥ずかしさが沸いたが、人々は混みすぎて互いに密着していたため目立たない。なんとか扉が閉まると、電車はゆっくりと動き出した。
ようやく背が伸びて170cmに達したが、依然として柔造とは8cmの差がある。鎖骨あたりに鼻もとがくる形だ。そこに顔を軽く埋めるようにして凭れると、抱き締める力が強まった。揺れる車体に合わせて人々も揺れるが、柔造はびくともせず支えてくれる。
そうしていると、すぐに電車は浜松町に到着した。降りる人が多いため、楽にホームへと出る。
他の駅に比べて圧倒的にキャリーケースを持っている人が多いのは、浜松町から羽田空港への空港モノレールが出ているからだ。最速で15分で国際線ビルに着く。
そういった人に合わせてエスカレーターを上ると、同じように明斗たちもモノレールへの乗換口に向かう。一度改札を出てからモノレール改札に入ると、入る人と出る人で分かれているエスカレーターを左に向かい、ホームへと出る。ちょうど乗る予定だったものが来ており、2人は少し小走りで乗った。
ボックス席があったり、向かい合う席があったり、車内は不思議な構造だ。アナウンスも、英語の他に中国語や韓国語がある。
「モノレールも初めてなん?」
「そだよ」
1人がけの椅子が向かい合っている席に座ると、窓の外に目をやる。やがてモノレールは動き出した。この次に空港直通のものが来るからか、あまり車内に客はいない。
モノレールが走り始めると、途端に景色が開けた。浜松町周辺のオフィス街に始まり、高層マンションや天王洲アイルのビル群が続く。
湾岸地域のビル群は、地面からして人工だからか、まさに最先端の未来都市のようだった。その鮮やかさに見いってしまう。
東京タワーやレインボーブリッジなどの名所も見えて、未来的な町並みはだんだんと運河と緑に変わっていく。やがて大井競馬場前から地下へと潜っていくが、その先に正十字学園の丘が見えていた。華やかな洋風建築の集合街、日本のモンサンミッシェルである。
『間も無く、正十字学園、正十字学園です。昭和島、整備場、天空橋へおいでのお客様は――――』
「ほな行くで」
柔造に促されて立ち上がる。楽しかったな、と真っ暗な車窓を見ていると、ふと柔造がこのルートを選んだのは明斗のためだったのではないかと気づく。品川で新幹線から京急に乗り換えて行く方が早かったはずだ。
そんなところまで考えていてくれたんだろうと思うと、やはり兄だな、と思わずにいられなかった。