昔は良かった
●現在
柔造(25)金造(20)廉造(15)×夢主(18)
昔は良かった、なんていうのは誰しもが1度は思うことで。喉元過ぎればともいうが、過去は得てして美化しがちである。
明斗とて例外ではなく、昔は良かったのに、と若冠18歳ながら遠い目になってしまうのだ。
昔は、柔造は本当に頼れるお兄さんといった感じで、養子入りした明斗をいつも気にかけてくれていた。柔造のおかげで力のコントロールができるようになったし、高校にも塾にも行かなくても祓魔師になれるよう勉強を教えてくれたし、何かあればすぐ手をさしのべてくれた。
柔造がお兄さんだとしたら、金造は兄貴っぽい感じだ。「明斗は俺が守ったる!」といつも意気込んでいて、実際困ったときにまっすぐ駆け付けてくるのは金造だった。頭は悪いが、その言葉はいつだって真っ直ぐで、幼少期にまともに人付き合いができなかった明斗にとって話しやすい相手だった。
廉造は、明斗にとって初めてで唯一の弟であり、自分が兄にこうして欲しいということをやって来た。廉造にとっても、忙しく弓の面倒を見ている柔造や、がさつで乱暴な金造よりも、明斗の方が理想的な兄貴だったようだ。小さい頃はいつも後ろをついてきて、それはそれは可愛かった。
では今はそれぞれ違うのかと言うと、決してそうではない。そうではなくて、それが過激になっているのが現状なのだ。
そう、3人に囲まれた今のように。
「あ〜明斗〜、ホンマかいらしなぁ、東京なんか行かさんで良かったわぁ〜」
「柔兄、邪魔なんだけど」
畳に胡座をかいて、その上に明斗を乗せるのは柔造だ。明斗のことを気にかけるあまり、四六時中側にいる。明斗が史上最速で上二級まで上り詰めたことも、同じ階級として常にパーティーを組む口実になっていた。
「明斗、午前の見回り大丈夫やったか?怪我ないか?」
「出張所近くの豆腐屋の婆さんと話したくらいしかなかったよ、金兄」
ぺたぺたと明斗の頬やら肩やらを触るのは金造で、「俺が守る」を極めすぎてただの過保護になっていた。普段のがさつな言動からは想像できないくらい細やかに心配してくる。
「アキ兄、やっぱ一緒に正十字学園行こうやぁ〜、今からでも遅ぉないねんて〜」
「行かないって、俺もう祓魔師なんだし、廉造」
背中に抱きついてくるのは廉造で、もう何百回と聞いた一緒に正十字学園行こうというお誘いを続けている。今さら行く必要などない。廉造の甘えたも過激化し、ストーカーよろしくついてくるようになっていた。
「せや、明斗、今度の日曜デートせえへん?」
「いや、デートって…」
「狡いで柔兄!俺も行く!」
「金造はその日仕事やろ!」
「えー、俺も行きたいんやけど」
「廉造は勉強せえ!正十字学園の合格判定まだEやろ!」
まだ行くとは言っていないのに、金造と廉造が相次いで行きたいと駄々をこねるが、柔造の方が正論だ。それにしても、そもそもなぜデートなのか。
「蝮さんと行けばいいじゃん。幼なじみでしょ?」
「俺は!明斗と!おりたいんや!」
「いつもいるだろ…」
自分からいつも側に来るくせに、あたかも普段一緒にいられない分かのように喋る。油断も隙もない。
「俺かて来年から寮入ってまうんやけど」
「俺やって2年前までの3年間おらんかったねんぞ」
「俺と明斗は予定合うとるんや!お前らとちゃうねん!」
騒ぎは収まる気配を見せず、明斗を挟んで3人がやんややんやと言い合う。しかも内容はまったくもって下らない。迷惑ではあるが、明斗とて志摩家の人間、強かでないはずもなく。
「柔兄、俺映画見たい。あの匂いとか震動とか出るやつ」
「えっ、料金倍…いや、ええで!明斗のお願いやし!」
「金兄、皇室御用達の羊羮食べに行こう」
「え、あぁ、おん、任しとき!5000円くらいなんぼのもんじゃい!」
「廉造、東京の洋菓子、速達で」
「送れと!?まぁええけど!!」
利用できるものは利用してやろう、とやりたいこと、欲しいものを上げておく。3人揃って複雑そうな顔になっているのがそっくりすぎて、笑いそうになった。