頼れる兄
●現在
柔造(25)×夢主(18)
どんなに変化しようとも、柔造は明斗にとって特別だ。昔から、柔造にはすぐ頼ることができた。今でこそ、柔造は常にパーティーを組みたがるし、しかもそれをめちゃくちゃ論理的に訥々と語るものだから、周りは柔造に何も言わず明斗と組ませるようになった。しかし、そのパーティーだってお互いがお互いにとって一番息を合わせやすいというのは事実で、周りもそれを理解している。
明斗は特に柔造とパーティーを組ませろと言ったことはないが、柔造が半強制的に組ませるのは悪くは思っていない。ただ、いかに柔造にとって明斗が必要かを彼が語る様は、ぶっちゃけ気持ち悪い。
とはいってもちょっとそういうことがあるだけで、明斗はやはり、今でも何かあると柔造を頼ってしまうのだ。かつて明斗を助け、暖かく「家族らしい家族」へ迎えてくれた柔造の側は、とても安心する。
どうしても耐え難く感じることについては、明斗から柔造を頼ることの方が多いのである。
***
初夏から本格的な夏へ移ろうか、という時期。台風接近にともなう前線の活発化によって、京都でも雷雨が予想されていた。
曇天の空と低く重い気圧に、明斗はため息をつく。
(これは…来るよな)
間違いなく嵐を予感させる天気模様に、気分まで重くなる。
明斗がどうしても耐えられないもの、それは、雷だった。主に、あの音だ。子供のようかもしれないが、その子供の頃のトラウマが理由である。
かつて、まだ産みの母やその家族と暮らしていた頃。いつものように、お化け、つまりは悪魔が見えたと泣いた結果、母は激怒して明斗を雷雨の降り頻る外のベランダに出した。屋根があったから直接雨に打たれることはなかったものの、当然風に乗ってそれなりに濡れるし、風は冷たく寒かった。
それだけではない。そのとき、雷雲が上空にあったために、すぐ近くで光っては落雷するような雨だった。雷が自分を狙って落ちてくるのではないか、悪魔が自分を狙うのではないか、なんて恐怖でいっぱいになり、必死にしゃがんで膝を抱えて顔を埋め、なるべく小さく見えるような姿勢を取った。
それ以来、明斗は雷の度に本能的な恐怖に支配され、その姿勢を取るようになった。そんなところを柔造に見られたのが中学生のときで、事情を洗いざらい吐かされてからというもの、「一人で耐えんと、俺んとこ来いや!」と言われ、柔造のところに来るようにしている。
今日も、きっとそうすることになるだろう。いつも今回は大丈夫なのでは、なんて薄い期待を抱くが、あの音が鳴れば途端に体が震え出す。
すると、障子の向こうに人影が現れた。シルエットを見なくとも誰かなんて分かる。
「…柔兄?」
「おん、これから雷雨やから」
普通なら意味をなさない会話だが、2人の間ではむしろ言葉が多いくらいだ。明斗は畳を座ったまま移動し、そっと障子を開けて、大きな姿を見上げる。それがやたら不安そうに揺れていたらしい、柔造はふっと苦笑して、後ろ手に障子を閉めながら畳に胡座をかく。
「おいで」
短く一言。言葉とその意味は、普通なら明斗とて拒否するものだが、柔造の低い声で言われると自然に体が動いてしまう。
それでも、胡座の上に座るようなことをせず隣にくっついて座り、肩に頭を載せるようにしてもたれ掛かるのは最後の抵抗だ。明斗だって、雷に怯えて柔造にすがるのは客観的に恥ずかしいと思うのだ。柔造はそんな明斗の葛藤もお見通しで、何も言わず頭を撫でてくれる。子供扱いするなといつもなら言うが、今は実際柔造に比べたら子供だし、なんて開き直っている。
そして、ついに空が光りゴロゴロと低い音が街に響き渡った。びくり、と揺れた肩を、柔造は無言のままとんとんと叩く。昔に比べたら、だいぶマシになったから、いずれ怖がることもなくなるだろう。だが、なんだかそれが勿体無く感じるくらいには、この優しい空間が心地好かった。