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研修は特に滞りなく進んだ。全国から集まった100人近い若手祓魔師たちで、グループワークやケーススタディなどしっかりとしたプログラムをこなしていった。

2日目は外に出てのプログラムが予定されており、学園内の宿泊施設から直接現地へ赴くことになっていた。

しかし朝起きてみると、外は生憎の大雨。プログラムは延期になり、夕方まで時間が空いてしまった。
ホテルの部屋は2人一部屋のため、柔造と明斗は手持無沙汰になってしまい、ベッドに座ってぽつぽつと会話していた。

テレビをつけてみても、平日の昼間にやっているのは下世話なワイドショーくらいだ。


『南下した低気圧により梅雨前線が押し戻され、南からの暖かく湿った風によって関東地方の上空は大気の状態が非常に不安定になっています。山沿いでは一時間に50mmの激しい雨になるでしょう。東京都心でも雷雨の注意報が出ています』

「げっ…」


番組は天気予報のコーナーになり、雨の降りしきる都心のライブカメラの映像が流れる。雷注意報が出ているようだ。


「こないな天気やとどこも行かれへんしなぁ」

「…そうだね」


もう昼間だというのに暗い空を見ていると、気が重くなる。雷というだけで、昔のトラウマが甦るというのに、今いるのは東京、しかも故郷の大田区。
いつもよりも心に重く感じられた。

まだこの街で暮らしている頃に、いつものように悪魔に怯えた明斗は雷雨の中ベランダに放り出されたのだ。そのときの記憶がトラウマとなって、今でも本能的に雷を恐れてしまう。最近はマシになったが、場所が良くなかった。


やがてホテルの食堂で昼食を取ってから、2人はまた部屋に戻る。やることもないままベッドに座っていると、ついにそのときが来る。

窓の外の空がピカリと光るや否や、ゴロゴロという低い音が響いてきた。ついに雷雲が上空に差し掛かっているらしい。
しかもわりと近いようで、音は大きく光ってからすぐ鳴り響く。


「雷か……明斗、大丈夫か」


雷のときは、大体柔造が側にいてくれる。まだ京都に来たばかりの頃にバレてからというもの、理由が理由なだけにきちんと寄り添ってくれるのだ。
心配げな柔造に「大丈夫」と言おうとすると、光とともにバリバリと響くタイプの音が轟いた。びくりと肩が揺れる。
柔造は立ち上がると、隣のベッドに座る明斗をおもむろに抱き上げた。


「わっ、」

「ほら、こっちおいで」


そして柔造は、自分のベッドに明斗ごと横たわったのである。抱き締められたまま横になり、柔造の腕が枕になっている状態だ。


「じゅ、柔兄……」

「大丈夫やで、俺がおる」


優しく囁かれ、明斗を守るように腕に抱かれる。密着した体から心音と体温が伝わった。
外からは雷の音の他に、降りしきる雨の音や風の音も聞こえた。外から聞こえる雨音は、なんとなく落ち着く。


「寝てまいそうやったら寝てええで」

「んーん…眠くない…」

「そか」


柔造にこうしてくっついているだけで、雷への本能的な恐怖は薄れる。ただのBGM、とまではいかないが、それでも肩を震わせるようなことはなかった。

たまに思い出したように柔造と会話して、静かに終わって。圧倒的に長い沈黙の時間には、外からの雨音が響く。とてもゆっくりとした時間だった。


「…なんや、たまにはええなぁ、こういうゆっくりした時間も」

「うん……何もしなくていいって、変な感じ」

「せやね」


いつもあくせくと働いているからか、こういう時間は新鮮だ。何が楽しいというわけではなくとも、心が満たされるような気がした。


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