5
翌日、研修3日目。
すっきりと晴れ渡った空の下、最後のプログラムとして全体でプレゼンをしていると、突然大会議室の前方にピンク色の煙が噴き出した。
全員が呆気に取られて見ていると、煙の中からピンクと白の奇抜な服装の男が現れた。
「グーテンモルゲン!研修お疲れ様です皆さん!」
「なっ、フェレス卿!?」
その男に、祓魔師たちは途端にざわついた。柔造も驚いており、明斗は初めて見る支部長の姿に目を見張った。
メフィスト・フェレス、学園の理事長であり騎士團日本支部の支部長でもある。
「途中で申し訳ないんですが、緊急事態です☆」
茶目っ気たっぷりに言うメフィストだが、緊急事態という言葉に祓魔師たちの身が引き締まる。研修中に中断して入ってきたのだ、訳があるに決まっていた。
「昨日の大雨で、上流から上級悪魔が増加した水とともに多摩川を下っています。確認が遅れまして、このままではあと30分で河口に到達してしまいます」
詳しく話し始めたメフィストに合わせ、前方のスクリーンには多摩川の上空写真が写し出される。
現在、悪魔は世田谷区付近を流れているらしい。このまま河口に到達すると、多摩川河口の首都高速道路などに被害が出る。上陸しようものなら、すでに市街地のど真ん中を流れる区域に来ているためとても危険だ。
「低級、中級の悪魔もついてきているようです。軽く悪魔の軍団の大移動ですね。これは大変由々しき事態です」
メフィストはがばりと白いマントをはためかせ、手を祓魔師たちに向けて翳す。
「あなた方には、日本支部の祓魔師とともにこの軍団の掃討にあたって頂きます!さぁ立ち上がってください!」
突然の任務の付与に緊張が走る。しかしこの研修に来ているのは中級以上、戦力としては申し分ない。一斉に立ち上がると、メフィストは「アイン、ツヴァイ、」とカウントを始めた。
すると次の瞬間、明斗と柔造は外にいた。
部屋の中から、開放的な広々とした空間の差によろめく。
他にも祓魔師たちが何人か辺りにいた。
「こ、こはどこや…?」
柔造が辺りを見渡す。
明斗は、ここに大層見覚えがあった。
「…大田区の多摩川河川敷だよ」
「へ、そうなん?」
「うん。この近くの鵜の木ってとこに住んでたから分かる」
そう、かつての地元に程近い多摩川の川沿いに来ていたのだ。河川敷はほとんど増水した川に飲まれていたため、堤防に祓魔師たちは展開している。堤防からは濁った巨大な川と、対岸に神奈川県川崎市、堤防の内側には大田区の住宅街が見渡せた。
どこか分かったところで、1人の祓魔師が駆けてくる。日本支部の者だろう。
「応援の方ですか!」
やって来たのは男の祓魔師で、中二級だという。メフィストの力によって飛ばされた祓魔師たちに、現状と詳細な任務が告げられた。
今回は、日本支部の主力と研修中の祓魔師の一部が、東急の鉄道橋で下ってくる上級悪魔の祓魔を行い、他は低級・中級悪魔の祓魔をすることになっていた。
ここ、鵜の木周辺に展開する明斗たちはザコの掃討が仕事だ。すでに低級〜中級の悪魔は市街地に上陸したものもおり、上級より先に川を下っているそうだ。
『こちら2班!矢口渡駅南方にて祓魔!すでに内陸に入り込まれている!』
「矢口渡…!?」
鵜の木よりもさらに東の方にあたる地域だ。あともう少しで蒲田というところである。
「堤防で新たな市街地への侵入を防ぐ人と、市街地での索敵にあたる人に分けるべきです」
瞬時に明斗が提案すると、日本支部の祓魔師は頷く。
「あなたは…」
「京都出張所の志摩です」
「志摩さん、土地勘があるんですか?」
「…あります」
「でしたら、市街地の方へお願いします」
「せやったら俺も行きます」
明斗は頷いて剣を袋から取り出す。柔造も申し出て、2人は川から京急の鵜の木駅方面へ祓魔に行くことにした。まだギリギリ、辺りの地図は覚えている。
まだ生家の家族が暮らしているかは分からないが、またここへ来て、まさか任務をすることになるとは、と内心で自嘲気味に笑った。