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錫杖と詠唱で悪魔を追い込んでいた柔造に加わり、明斗も剣を蛇に突き刺した。すぐに柔造は詠唱すると、明斗の剣に電流を流す。柄によって明斗には伝わらないが、内部から電気を流される悪魔は悲鳴を上げる。
その隙に、明斗はホルスターから拳銃を取り出すと、それを蛇の頭に突き付けた。


「…じゃあね」


引き金を引く。パン、という乾いた音とともに、ついに悪魔は絶命し、消滅した。
辺りには沈黙が戻る。それによって泣いている男の子の声が耳につき、2人は親子を振り返った。


「祓魔は終わりましたさかい、安心してもろてええですよ。お怪我は大事ないですか?」

「は、はい……」

「柔兄……?」


笑顔で母親に言う柔造だが、その声はひどく冷たい。ただの被害者であるはずの相手に向ける声音ではなかった。これは間違いなく、怒りによるものだ。

それに身を引きつつ、母親は意を決したようにこちらを見た。


「明斗、私がしたことは、謝って許されることではないわ。でも、あなたと同じモノを見て…あなたがどれだけ怖かったか分かって…」


血が滲む腕を庇いながら子供を抱き締める母親。その抱擁を渇望していたのは、ほんの5年前までのことだった。


「…あなたと、また、親子になりたいって思ったの。一度捨てておきながら、本当に虫がいいって分かってる。でも……やっぱり、お腹を痛めて、初めて生んだあなたを……きちんと、育ててあげたかった……!」


声を震わせて涙を流す姿を見て、明斗は俯いた。昔は叱られないかビクビクして見ていた母親は、今やすっかり小さく、頼りなく、1人の人間として映った。


「………ホンマ、虫がええですなぁ。そないなこと、よう言えはるもんや」


すると、柔造が笑顔を消して低く言った。本気で怒っている。今までこんなところを見たことがなく、明斗は一緒に暮らそうと言われた驚きよりもそちらに驚いた。
京都弁は本当に怖い。


「あなたは……」

「あんたが捨てた明斗を見付けて、ウチで引き取ったモンや。兄やっとります」

「…あのあと騎士團から、親権の移動などについては騎士團でやると通知が来たのは、それが理由だったんですね…」

「せや。やから、もうあんたに明斗の母親を名乗る資格なんてあらへん」


柔造は珍しくズカズカと言っていく。普段なら絶対ここまで言わない。


「柔兄。落ち着いて…大丈夫だから」


その腕を掴んで言うと、柔造は逡巡して、無言で頷いた。
それを見届けて、明斗は母親に向き直る。


「…さっき言った通り、俺はもう、あなたを母親とは思わない。今、俺は温かくて、幸せなところにいるから」


明斗はそう言って母親のもとまで歩き、その前にしゃがむ。近くで目を合わせると、少し皺が増えたように見えた。


「これからは、お互い別の人生を歩もう。他人として。その方が、誰にとっても幸せだと思う。魔障のことは、騎士團が色々指導してくれるから安心して」


そして、もう一度明斗は笑顔を作る。これが、本当に最後だ。


「…ずっと言いたかったことがあるんだ」

「………ええ」

「…生んでくれて、ありがとう。今幸せでいられるのも、あなたが生んでくれたから、小5まで育ててくれたから。…俺は幸せだよ。だから、あなたもどうか、幸せになって」


母親の目からひとつ、滴が零れる。それは見て見ぬ振りをして、立ち上がった。ちょうど騎士團のスタッフが駆けつけてくる。気配からして、辺りには他の悪魔はいない。もう大丈夫だろう。

明斗は柔造とともに、その場を後にした。風が少し強く吹き抜ける。
後ろを振り返ることは、なかった。


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