8





荷物を取るため、2人はホテルに戻ってきた。上級悪魔を含め掃討作戦は無事に成功。研修は曖昧な感じになってしまったが、これでひとまず3日間の日程は終わりだ。
部屋に入ると、どっと疲れが押し寄せる。


「はぁ〜……疲れた」


ため息をつきながらベッドに座ると、柔造が無言で側に立つ。どうしたんだろう、と思って見上げると、突然抱き着いてきた。受け止められるわけもなく、柔造とベッドに倒れこむ。


「わっ…柔兄……?」

「………明斗、」


そして、強く抱き締められる。昨日と同じような体勢だが、昨日は明斗が柔造に抱き着いていたようなものだった。しかし今は、柔造が明斗に抱き着き、身長差から抱き締める形になっていた。


「…どうしたの?」

「……最初は、こいつが明斗を傷付けよった女かて思た」


語り始めたのは脈絡のない話で、恐らく先程のことで柔造が思っていたことについてだろう。


「でもあいつが一緒に暮らそうなんて言いよったとき………俺、明斗が行ってしまうんやないかって思うたんや」

「俺が、志摩家を離れて?」

「…せや。そう思うたら、なんや焦ってもうて。ついきつくあの人に言ってもうたんや。……上級祓魔師失格やな」


任務中に相手に私情をぶつけるなど、確かに公権力を行使する立場の祓魔師にはあってはならないことかもしれない。


「せやけど、明斗が今幸せやって…せやから一緒にはならへんて言うとったん聞いて、安心して…そないな自分にまた嫌気差したわ」


自嘲気味に笑う柔造。そんな笑い方は、してほしくなかった。あの橋の上で、連れてこれて良かったと笑ってくれた、あのような笑顔でいて欲しい。


「柔兄、俺、そう思ってもらえて嬉しいよ。…俺が生きてるのは母親のおかげだけど、俺を志摩家に迎え入れて、ずっと支えてくれたのは、柔兄なんだ。……俺のこと幸せにしてくれたのは、柔兄、なんだよ…!!」


言っているうちに、だんだんと声が震える。



5年前、1人で寺に残され白む空に絶望した。捨てられた悲しみに、心が死んでしまいそうだった。
そんな明斗に、力が暴走して風が傷付けても、柔兄は「大丈夫や」と微笑んで近づいてきてくれた。そして、抱き締めてくれた。その温もりは今でも忘れられない。
それからも、体を切傷だらけにしながら明斗に力のコントロールを教えてくれたのだ。


「柔兄が、俺を家族にしてくれたから…!だから、皆に会えた…!」


八百造は最初こそ戸惑いながらも、父の日をきっかけに明斗のことを息子と認めてくれた。それは、柔造が諭したから気付けたことが大きかったのだと、後に聞いた。

金造もどうすればいいのか分からなさそうにしていたが、親族会議において、「俺が守ったる!」と怒鳴って明斗を連れ出してくれた。その真っ直ぐな言葉と真摯な眼差しは明斗の心にすんなりと入った。あれをきっかけに、兄と呼んでもいいのだと思えたのだ。
金造も、柔造の言葉で兄として接することを決めたのだという。

廉造も、剛造も、志摩家の人は皆温かく迎え入れてくれた。蝮も姉と呼べと言ってくれたし、座主血統の勝呂家も家族のように接してくれる。みんなみんな、明斗を受け入れてくれた。
だから、竜士たちの運動会で明陀宗として大きな役割を任せてくれたのだ。


「俺に、武器じゃなくて家族なんだって、教えてくれたのも…誕生日を祝われるのが、どういうことか教えてくれたのも…全部、柔兄だった……っ!」


任務で柔造と蝮を庇って大ケガを負ったときに、明斗を武器として迎えたなんてことは無効だと言ってくれた。明斗が誕生日を嫌うのを諭して、皆の明斗を思う気持ちの発露なのだと教えてくれた。


そうしたことが、自身の存在意義を疑問に思い、家族というものに不慣れだった明斗でも、自分に自信を持って、志摩家の一員であることに胸を張れるようにしたのである。

ぼろぼろと涙を溢してしまいながらも、明斗は必死にそう伝えた。
今の明斗は、柔造がいるから生きている。幸せだと思えているのだ。


柔造も珍しく目が少し潤んでいる。至近距離で目が合った。


「だから…ありがとう、柔兄。俺を、家族にしてくれて」

「明斗……っ!!」


柔造の胸板に顔を押し付けられるようにして、強く抱き締められる。明斗も負けじと目の前の逞しい体に抱き着いた。全身で、気持ちが伝わればいいと思った。

血の繋がりなど付け入る余地すらないような、そんな固い絆が2人を包んでいる。それはきっと、血の繋がりだけの家族よりも、遥かに家族らしいのかもしれなかった。


34/72
prev next
back
表紙に戻る