京都不浄王編/襲撃と混乱


●現在
京都不浄王編1





上二級祓魔師の明斗は、その特殊性から固定された役職についていなかった。祓魔隊や深部担当など色々な役職がある京都出張所において、明斗の仕事はその都度異なる。人手の足りないところに補てんされたり、助っ人に赴いたりと、当初はこんなポジションの人間が必要なのかと思うこともあったが結構仕事は多い。

7月22日の昼、その日も明斗は臨時の仕事として深部の担当についていた。深部に向かうエレベーター付近での警備だ。
じっとそこに立っていると、エレベーターが稼働する音が鳴り始める。誰か降りてくるようだ。地上から非常に深いところまで地面を掘って造られた堅牢な深部は、この妙陀宗の最大の存在意義である不浄王の右目を封印する重要な施設。限られた者しか入ってこれない。

そうして重厚な扉が開いて出てきたのは柔造だった。


「あれ、柔兄、どうしたの」

「蝮から呼ばれたんや。なんでも、護摩壇の調子が悪いんやと」

「そうなんだ」


言いながら、明斗はその先の扉を開く。通常は警備が開けることになっていて、許可がないと入れない仕組みだ。
柔造が中に入っていくと再び扉を閉める。

しばらくすると、今度は壁に設置された電話が鳴った。


「はい、こちらエレベーターホール」

『柔造や。やっぱ護摩壇の様子がおかしいさかい、和尚(おっさま)を呼んできてくれるか』

「了解」


持ち場を離れて呼びに行かせるとは、よほど護摩壇の調子が悪いらしい。中には封印を維持するための詠唱を行う宝生の三姉妹がおり、柔造も控えているため、持ち場を離れても大丈夫だろう。
明斗はエレベーターで地上に上がると、携帯を携帯しない和尚、勝呂達磨を呼びに行った。


そうして達磨を連れて深部に降り、エレベーターホールからさらに先の深部の中心、右目を封印する空間に出た。
扉から岩の壁に沿って廊下が続き、空洞の底は水が満ちている。廊下からその水の上にせり出すように廊下が続き、その中心の柱に右目が封印されている。
燃える護摩壇の熱気と地下水の湿気が混ざり、独特の空気だ。錦と青の詠唱が響いていることもあり、少し不気味でもある。


「和尚、こん度は騎士團深部にまでご足労いただきまして申し訳ありまへん」

「なーに、私にできることなら」


酒のせいか少し顔を赤らめた達磨は、柔造と蝮に連れられて護摩壇のひとつに向かう。どうやら蝮の担当する護摩壇に異変があったようだ。達磨を見送ることも明斗の仕事のため、明斗も深部にとどまって様子を見守る。

座椅子に座って様子を見る達磨に、後ろに控える蝮が口を開いた。


「達磨様。達磨様は騎士團に加わる気はないんですか?」

「蝮!和尚を邪魔すな!」


隣の柔造がいさめるが、蝮はまったく聞かない。達磨は「んー?」と軽く返事をすると、護摩壇の木をいじりながら答えた。


「せやなぁ…こう見えて私も忙しくてなぁ…とても大事な務めなんや」


しかし蝮は食い下がる。いわく、妙陀宗は打ち損ねた不浄王の右目を封印するために存在しているはずなのに、それを差し置いてやるべき仕事とは何なのか、ということだった。蝮だけではない、妙陀宗の上位の者たちは皆思っていることだ。


「蝮!大概にせぇ!!」

「堪忍な蝮…呼ばれればいつでも顔出すさかい、許したってや」


まさに暖簾に腕押しといったところか。蝮が怒りに震えた、そのときだった。

突然、達磨の前の護摩壇が勢いよく火を噴いた。どう見ても自然な燃え方ではない。まるで、意思を持って動いているかのようだった。
錦と青の詠唱も思わず止まる。明斗はすぐに臨戦態勢になった。


「柔造!蝮!錦と青を連れて逃げぇ!」

「は、はっ!」


動揺しつつも、柔造と蝮は錦を青を連れて護摩壇を離れる。
達磨は残って詠唱を始めるが、炎は勢いよく柱に向かっていく。蝮はそれを見て立ち止まった。明斗は蝮が連れるはずだった青のところへ走って炎から遠ざける。


「私は右目を守る!」

「蝮!?なにを…!」


そして、蝮はそう言うと水に飛び込み、柱に取り付けられた梯子を上り始めた。そこへ、騒ぎを聞きつけた他の深部担当の祓魔師や所長である八百造がかけてくる。



「な、なんやあれは…!」

「父さん、突然護摩壇の火が…!」


明斗は慌てて八百造を迎えて説明しようとしたが、柔造が見かねて水に飛び込み、火に包まれようとする蝮を錫杖を投げることによって梯子から落とし、助け出す。

一方、右目の封印は溶け、瘴気が漏れ出していた。八百造は「皆下がりおれ!!」を叫ぶと廊下を走り、柱に飛び乗って上まで行くと右目を覆い隠した。
瘴気を覆い炎に炙られる八百造。明斗は息をのんだが、そこへ達磨の詠唱が完了した。
それと同時に右目はパンッと音を立てて封印に覆われ、その衝撃で八百造は水中に叩き落された。


37/72
prev next
back
表紙に戻る