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出張所に戻ろうとした明斗の耳に聞こえてきたのは、虎屋の広間の方から聞こえてくる騒ぎだった。何やら暴れているような騒音に、軽い悲鳴。何かが起きている。
一瞬襲撃かと思って駆けつけると、だだっ広い広間に並べられた魔障者たちに向かって、大きな蛇と錫杖が突っ込んでいくところだった。
危ない、と駆け寄ろうとしたが、そこへカッとまばゆい光が放たれる。即座に、それが被甲護身の印だと気付いた。
それを結んだのは、見慣れた後姿の三人。
「やめえ!味方同士で何やっとるんや!!」
春より少し大きくなった、竜士、廉造、子猫丸の三人による詠唱結界だった。しかもどうやら騒いでいたのは柔造と金造、そして宝生三姉妹だったようで、突然の三人の登場に驚いていた。
竜士はいくらか蝮たちと話してから、手伝いに戻っていった。
こんなときにまで喧嘩、挙句座主血統の子供に諫められるとは。だが、いつも通りに喧嘩する姿に、心からほっとしてしまい、明斗は柔造たちのところで向かった。
「柔兄、みんな」
「明斗!」
五人の布団が乱れて置かれた部屋に入ると、それを整えていた柔造たちが明斗を一斉に見上げる。見舞うのは初めてだ。もともと軽度と聞いていたことや警備の仕事が忙しかったのもあるが、少し怖かったのだ。
明斗の中で、彼らはいつでも頼れる先輩たちだったし、特に柔造は絶対的な強さだった。悪魔の血を引き、学校に行かずに訓練していたからこそ金造たちよりも上の上二級なわけだが、それでも柔造は越せていない。
だから、柔造がこうやって負傷して床に臥せるのが初めてのことで、急に明斗は怖くなってしまった。
あの最強の柔造も人間で、大けがをすれば普通に死んでしまいかねないということに気づいたのだ。それは当たり前のことだが、今まで意識できなかったのである。
「魔障とかやけどは大丈夫?蝮姉さん」
「問題あらへん」
先ほどまでの喧騒はどこへやら、蝮は落ち着いて大丈夫と答えた。他の錦や青も頷く。金造は地上に漏れた瘴気によるものなので見るからに元気そうだ。大事をとっただけだろう。
「柔兄は?」
「俺も平気やで。心配させて堪忍な」
皆元気そうで安心して畳にしゃがみ込むと、側にいた柔造が優しく笑って明斗の頭を撫でる。
「…良かった、何ともなくて」
「せやな。まっ、でも明斗が怪我するよりマシやけどな」
「えっ…?」
柔造は朗らかに言うと、頭を撫でていた手を後頭部に回し、優しく明斗の顔を覗きこむ。
「明斗が怪我してもうたら、俺の心臓がもたへんし。明斗が瘴気に強うて良かったわ」
先ほどまでは、明斗は瘴気に遭わなかったことを柔造たちとの差異として捉えて少し落ち込んでいた。しかし、柔造はむしろそれで良かったと言って笑ってくれた。
それだけ、救われるような気がした。
「…俺もケガしないから、柔兄もケガしないで」
「おう、せやな」
「えー、俺はー?」
笑いあう2人に、金造が飛び込む。柔造の腕を払うと、金造は明斗を抱きしめた。
「わっ、」
「俺もケガせぇへんから明斗もケガしたらあかんで!」
「金造は調子乗って怪我するタイプやし、気ぃ付けて戦えるんならもうちょい落ち着いとるはずやん」
「柔兄そういうマジレスやめて!」
リアルな指摘に金造は柔造に叫ぶ。おかしそうにする柔造に、明斗もクスクスと笑う。
険悪な雰囲気は、もうこの部屋にはなかった。