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柔造たちの部屋を離れ廊下に出ると、ちょうどそこにスイカを持った少年が出てきた。制服からして、増援の候補生だろう。
だが、その腰からは尻尾のようなものが出ている。というか、まんま尻尾だ。


「…君、」

「ん?」


少年はこちらを向くと、じっと明斗を見てくる。明斗も少年を見つめる。何か、気配を感じるのだ。尻尾が飾りなわけがないため、単純に考えてこの少年は悪魔の血を引いている。それも、非常に強力な。


「君、悪魔の子だろ」

「っ、まぁ、そうだけど…あんたも変な感じがする」

「俺もそうだからじゃない?」

「えっ!?あんたも悪魔の血引いてんの!?」


ぎょっとして驚く少年のリアクションに苦笑する。悪魔の血を引くものは、珍しいがいるにはいる。とりあえず少年に近づき、スイカをひとつ拝借すると、しゃくりと食べる。十分な糖度でおいしい。


「…俺は奥村燐っていうんだ。あんたは?」

「俺は志摩明斗。上二級の祓魔師」

「志摩ってことは、志摩の兄ちゃんか!」


また驚く様子に苦笑する。素直だなぁ、なんて思いながらうなずいた。


「廉造のお友達かな。いつもお世話になってるね」

「あ…えーと、まあ、はい」


そんな素直な少年、燐が言いよどんだ。ひょっとして仲が悪かったのだろうか。そうであれば悪いことをした。


「あの、さ…こういうの聞くの、あれだけど、あんた志摩と似てないよな?あいつは悪魔の血引いてるようには見えねぇし」


すると燐は言いづらそうにしながらもはっきりと聞いてきた。言葉遣いこそチンピラ感をぬぐえないが、根はいい子なのだと分かる。


「そうだね。俺は昔、悪魔の血を引いてるから周りと違うもんが見えてて、悪魔の力も暴走気味だったから、親に捨てられたんだ」

「え…」

「そこを志摩家に拾ってもらってね。だから血はつながってない」

「…すんません、俺、」

「いいよ、謝ることじゃない。俺はいま幸せだからさ、なんも気にしてないよ」


途端に申し訳なさそうにする燐。明斗は気にするなという意味を込めて、燐の肩に乗る黒猫、恐らく猫又の頭を撫でた。


「…俺、なんのために生まれてきたんだろって、たまに思うんだ。わりとやばい悪魔の血ぃ引いてるから、騎士團にはいい顔されてねーし、簡単に人のこと傷つけちまう」

「生まれてきた意味ってこと?」

「まぁ、そういう感じ」


皆同じことを悩むのだな、と明斗は内心思った。明斗もまったく同じことを考えたし、その答えを見つけられないまま長い時間を過ごした。悪魔の血を引く、それがもたらすものは悪いことばかりなのかもしれない。


「…俺にも、そんなの分からないよ」


その答えは今も見つかったわけではないが、もう答えを探そうとも思わなくなっていた。


「生きる意味なんて、自分でつくるもんだ。最初からあるわけじゃない。意味あることをして初めて、意味ある人生だったって思えるんだと思うよ」

「…意味あることをして初めて、意味が生まれる…」

「先に生まれてくる意味があるわけじゃない。まずは自分がそういうことをしないと」

「そう、か…うん、なんとなく分かる」


燐には漠然とだが伝わったらしい。腕時計を見て、そろそろ持ち場に戻らないといけないと思い、最後に尋ねてみた。


「…君は今、幸せ?」


脈絡のないことを燐に尋ねてみると、燐は顔を曇らせた。考えたこともなかったのだろう。


「…ぶっちゃけ、わかんねー。俺、この力を全然使いこなせなくて、勝呂たちにも避けられてるし」

「そっか。難しいよね」

「…むずかしい」

「でも、君は優しい子みたいだし。大丈夫だよ」


明斗が柔造に出会えたように、志摩家や妙陀宗の人々に出会えたように。燐にも、燐を無条件に迎えてくれる人たちが現れるはずだ。こんなにも優しい少年なのだから。
ぽん、と肩を叩いてから、ついに明斗は仕事場へと戻っていった。


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