京都不浄王編/関係と距離
●京都不浄王編2
翌日、志摩家から仏教系祓魔師の制服を来た兄弟が出勤した。明斗だけでなく、柔造と金造も復帰してともに出張所へ向かうのだ。
すでに朝からセミがうるさく鳴いており、空気は暑苦しく重たい。盆地特有の熱気がこもったような暑さだった。
「あー、今日もあっついなぁ」
金造はそうぼやきながらパタパタと黒衣の襟もとを扇ぐ。明斗はそこに向かって風を軽く送ってやった。
「なまぬるぅ…」
「風ありゃいいってもんじゃないよね」
「まだ7月やんか、8月なったらどないすんねん」
風といっても、生ぬるい空気であることに変わりなく、金造の微妙そうな顔が面白い。柔造も笑いながら、これから本番を迎える京都の夏をにおわせた。
「あー、今だけ札幌出張所とかで任務したいわー」
「今朝のニュースで札幌も30度って言ってたよ」
「日本は終わりや」
北国も30度の大台に乗っていることを告げる朝のニュースは、確かにこの国には逃げ場がないかのように思える。きっと、北海道の30度と京都の30度は湿度などによって大いに体感の差があるのだろうが。
そんなことを話しながらすぐ近くの旅館に着くと、まず大広間に向かう。朝食が用意してあるということで、今朝は家ではなくこちらで朝食をとることにしていた。
「ん?あのあほ面は…廉造やんけ」
広間に着くと、広い空間に整然と並んだ机に
朝食が広げられていた。その端の方に、廉造が座っている。一緒にいるのは、昨日話した燐だ。
そしてそれに気づいた金造は、自身のことは棚に上げて「あほ面」めがけて飛び込んでいった。
「れえええんぞおおおりゃっ!!!」
「いっだぁ!!!???」
華麗な飛び蹴りが決まり、廉造は座布団を巻き込んで転がる。可哀想に。なんだかんだで家族大好きな金造も嬉しいのだろうが、廉造からすればただただ迷惑である。
「元気やなぁ」
「朝からね…」
廉造が起き上がる頃に柔造と明斗も追いついて、蹴りの姿勢から直った金造に並ぶ。
「いきなり何するん金兄!!」
「なにて…飛び蹴りやろ、お前アホか?」
「お前がアホやドアホ!!!」
金造の横暴に思い切り睨みつける廉造、金造は何を言っているんだこいつはとばかりの顔をする。柔造はまったく気にせず朗らかに笑った。
「廉造!元気そーで何よりやで!」
「おげ、柔兄も…」
「おげってなんやねん」
少しばかり可哀想になった明斗は、2人の後ろを出て廉造のところに歩み寄る。
「大丈夫?廉造」
「はっ!アキ兄!!久しぶりやな!!」
先ほどまでの眼光はどこへやら、廉造はぱっと顔を明るくすると立ち上がり、明斗に抱き付いた。すっかり大きくなって、金造より1センチ背が高い廉造に抱き締められると、肩に鼻が当たる。
「あーアキ兄の匂い〜癒されるぅ〜」
「はいはい、久しぶり。元気してる?」
「今元気になったで!!」
「いつまでくっついてんねや」
ぎゅうぎゅうと抱き付いてくる廉造に苦笑すると、柔造がそれを引きはがした。廉造は少しむっとするが、倒れていたのを思い出したのだろう、「体大丈夫なん?」と2人に尋ねた。
「もともと軽度やったからな、今日から現場復帰や…お、」
すると柔造は、離れた席にいる子猫丸に気づいた。左手に怪我をしたのか、包帯で覆われて首からギブスによって固定されている。今年の候補生たちが東京での訓練にて大きな事件に巻き込まれたというのは大まかに聞いていたため、子猫丸の様子に心配になる。
「こっち来て一緒に朝飯食おうや」
「あ…僕、もう終わるんで…!」
「?…なんやあいつ、反抗期かいな…」
子猫丸はさっと頭を下げるのみで、動こうとしなかった。ちらりと燐を見たのに、明斗は気づく。些細なことだが、昨日の燐の言葉を思い出す。
悪魔の血を引くことがバレて、竜士たちに避けられていると言っていた。子猫丸もそういうことなのだろう。
そのわりに、末の弟は平然と一緒にいるし、昨日燐は廉造ともぎくしゃくしているようなことも言っていた。