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色々あるのだろうと子猫丸をそっとしておくことにしたらしい柔造の横で、金造がすぐ近くで口をもごもごとさせている燐に気づいた。
「誰やこいつ」
「あー、こちらお友達の奥村君!」
廉造はそれに対し、もともと座っていた燐の正面に腰を下ろしながら答えた。どうやら2人のわだかまりは解けたらしい。
「おお〜、そーかそーか!俺は柔造、廉造の兄貴や!」
「ど、どーも!」
金造は廉造の隣に、柔造は燐の隣に座り、明斗も柔造の隣に座る。柔造は引き続き、金造に指を向けて紹介する。
「そっちは四男の金造でドアホや」
言われてるよ、と思って金造を見るが、今更なのかまったく気にせず、おいしそうな朝食に目を輝かせていた。
「んで、こっちは五男の明斗」
「あ、明斗さんは昨日会ったっす」
「昨日ぶり、燐君」
「おっ、そーなんか!いやぁ、廉造は男兄弟の末っ子でどスケベやけど、よろしく遊んでやってな」
さすが兄貴、といった感じで笑う柔造の向かいでは、すでに金造が豪快に白米を掻き込み始めた。おおよそ食べるときの効果音ではないような音が聞こえてきそうだ。
遊んでやってくれ、と言われたからか、廉造は思いついたように燐にプールに行こうと誘っていた。どうやら候補生は今日は休みなようだ。友達とプール、など明斗には縁のないシチュエーションだが、楽し気に話す廉造に楽しそうでよかったと思う。
明斗も食べようとお吸い物に手をつける。優しい香りが包み込むような食欲を沸せてくれた。
「志摩お前って…めちゃくちゃいいヤツだな!!」
ふと隣を見ると、柔造の手が止まっている。その目線をたどると、テンションを上げる燐の尻尾が畳にパシパシと打ち付けられていた。なんだこれは、という柔造の顔に、なんで隠しておかないんだろうと明斗も不思議になった。
「よーやっと気づいたんか、俺はいいヤツで有名ないい男やで」
「よし、じゃあさっそく…」
「それってあたしもお誘いあるのかにゃ〜」
そこへ、よく通る女性の声が落ちてきた。同時に、燐のシャツのうなじ付近を掴んで猫のように引き上げる。上体を引っ張られる半端な体制で燐は驚きの声を上げた。
「わわ、シュラ!」
「燐お前修行は?昨日はやったのか?」
「いや、昨日は途中から記憶が…」
「おぬしたるんどるぞ!」
やってきた女性は、金とオレンジのグラデーションとなった長い髪が印象的な美女だった。露出の多い恰好もあって目立つこの外見は、確か最近日本支部所属になった上一級祓魔師の霧隠シュラだ。東京の増援隊の隊長をしている。
燐と「修行」とやらを巡って口論をするが、シュラに軍配が上がったらしい。
「わりぃ志摩ダメだった!また今度絶対な!」
「ええよ〜」
「いいから来い!」
シュラに引きずられるようにして、燐は食事の席を立ってどこかへ連れていかれた。ころころ変わる表情や素直なリアクションは見ていて面白く、昨日より元気になったのか活発な様子だった。
「ははは!色々おもろい子ぉやな!」
柔造も同じことを思ったのか、はっはっはと爽やかに笑う。金造が相変わらず騒音を立てて食べている横で、廉造も軽く笑って見送っていた。
「おもろいやろ色々〜。つか修行てなんやろ」
「修行ね…よし廉造!久々に兄ちゃんと手合わせするか!」
「遠慮します」
即答する廉造に、「まったくお前は…」と柔造も呆れる。面倒くさがりな廉造が、容赦ない柔造との手合わせに休みを使うわけがない。
ただ、明斗はふと久しぶりに柔造と手合わせしたくなった。騎士の称号を持つ上二級祓魔師として、互いに互角の力であるが、柔造は錫杖、明斗は剣と獲物が違う。それは勉強になるし、何より柔造とが一番息が合うので、手合わせをすると気分がいいのだ。
「柔兄、俺やりたい」
「明斗!ええでええで〜、今日も今日とてかいらしなぁ〜」
「はいはい…あぁ、でも、11時くらいからでいい?」
「ええで」
すぐやりたいところだが、今日は朝食後に予定があったのを思い出したのだ。
珍しい、蝮からの呼び出しである。