京都不浄王編/疑心と秘密
●京都不浄王編3
昼食後、昼も3時を回ったあたりから、明斗と柔造は鶯の間へ向かった。そこで、襲撃時に深部にいた者たちと僧正家の当主たちが集まって詮議を行うことになっていた。
色々と手合わせで柔造は明斗に聞きたそうにしていたし、明斗も頭の中に様々な謎の感情が浮かんでいたものの、今回の一件に関する重要な場であるため、きっちりと思考を切り替えていた。上級祓魔師なのだ、そのあたりはわきまえている。
静謐、というよりは疑念による沈黙の落ちる部屋。柔造は八百造を支えるため奥へと向かい、先に明斗は序列順になっている席についた。
長い机に向かい合うようにして、上座から家柄ごとに並ぶ。志摩家からは八百造と柔造、明斗の参加であるため、上座から3番目に座る。
あとからやって来た子猫丸がひとつ下座である明斗の右横に座り、正面には蝮がいる。
竜士も参加しており、一番上座となっている席には達磨も来るはずだ。
そして時間になり、八百造が柔造に支えられながらやって来た。
「皆、ゴホッゴホッ、今日は急な招集によう集まってくれたな…」
激しく咳き込む八百造は、どうやら症状が悪化しているようだ。何とかという体裁で、八百造と柔造も席に着いた。明斗の左隣が柔造だ。
「皆に一つ知らせることがある…和尚は重要な用向きで、会にはできひんそうや」
「なっ…!」
八百造の言葉に愕然とするのは竜士だ。確かに、騎士團から妙陀宗が疑われている現状において、座主が来ないというのは好ましいことではないと言えるかもしれない。
しかし事態は急を要する。達磨は不在だが、このまま進めることになった。
「今日集まってもろたんはほかでもない…裏切り者をあぶりだすためや」
「ちょ、ちょっと待ってください、妙陀内に裏切り者がいるいう証拠はあるんですか…!?」
「そ、そうや、だいたい私らは、左目が存在するという事実すら、ほんの四日前に知らされて驚いているいうんに…!」
直接的な八百造の言葉に、当主たちや錦たちがざわつく。東京の最深部に封印されていたという左目の存在は、妙陀にとっては寝耳に水だったのだ。
「静かに!、ゲホッ…あんときあの場にいた者は、妙陀の者に限られる…」
「……また妙陀にしか、あの封を破れる者もおらんやろう。柔造さん、まずあの日深部で起こったことを説明してくれへんやろか」
「は、はい」
八百造を引き継いで、蟒も言った。蟒はまず、状況を知らない当主たちのためにも柔造に改めて説明を求めた。
明斗もあの日深部にいたため、柔造の説明を聞きながら思い出す。
もともと深部の担当だった宝生家の三姉妹が詠唱しているところへ、連絡を受けて柔造がやって来た。蝮の担当する護摩壇の調子が悪いとのことだった。
エレベーターホールの警備担当だった明斗は、柔造を送り、そして連絡を受けて達磨を呼びに行った。
そうして達磨とともに深部に入り、達磨が護摩壇を見始めると、突然炎が激しく燃え上がり、右目に迫った。蝮はそれを止めようとするも柔造に制止され、代わりに駆けつけた八百造が瘴気の拡大を押さえた。
「…つまり、あの現場で右目の近くにおったのは、わが宝生家の娘三人と、救けに入った柔造さん、明斗さん、八百造さん、そして…ここにおらへん達磨大僧正の7人というわけや」
静まり返る部屋の中、蟒は冷静に整理していく。
最初からいたのは宝生家三姉妹、後から柔造、明斗と達磨、そして八百造という順番で加わった。護摩壇の炎が荒れだしたときにいたのは八百造を除く6人だ。