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すると突然、ぐらりと地面が揺れた。ボコボコと音がする天井を見上げると、天井のむき出しの岩と土がどんどん腐敗していくのが見えた。
「な、んだあれ…」
「天井が…!」
柔造も動きを止める。天井はどんどん腐っていき、下に向かって膨らんでいく。
崩れる、そう思った瞬間、梁ごと天井が一気に崩落した。大量の瓦礫と土砂が落ちてきて、柔造とともに明斗は後退する。
「蝮!!」
柔造が叫ぶが、右目も蝮もナーガによって守られていた。そして、崩れる天井から声が降ってくる。
「やあ、志摩君。お久しぶりだね」
「藤堂!!」
トレンチコートを来たメガネの男。詮議の場で見た資料にあった、藤堂三郎太だ。最深部を襲撃した悪魔堕ちである。
藤堂は蝮の後ろの柵に降り立つと、朗らかな笑顔でこちらを見下ろした。
「この狸、蝮を誑かして何が目的や!!」
「狸か、ははは!いいね!いや、今回はあくまで宝生君の手伝いをしているだけだよ」
「そうや。藤堂先生は関係あらへん」
蝮はナーガに魔法瓶を破壊させると、右目が封じられたフラスコのような器を受け取る。その中から、右目をゆっくりと取り出した。徐々にあふれ出る瘴気。
「蝮、何やっとるんや、よせ、やめろ!!」
「だめだ蝮姉さん!!」
2人の制止も空しく、蝮は右目を取り出してしまった。途端に、蝮の周りに黒々とした瘴気があふれた。
騒ぎを聞きつけた祓魔師たちが駆け寄ってきて、合わせて竜士も廊下にやってくる。明斗は慌ててそちらに下がり、竜士の前に立ちはだかった。
「竜士様!下がってください!」
「明斗、」
しかし、その間にも蝮は右目を自らの目に封じると、闇に紛れて消えてしまった。藤堂も一緒に。
「騙されとるんはお前らの方やろ」という声だけが最後に残されていた。
跡形もなく消えた2人。駆けつけた祓魔師と柔造が柱まで行くが、もはや追跡は不可能だ。
衝撃音は地上にも聞こえていたのだろう、どんどん祓魔師たちが集まってきて、壁際の廊下は祓魔師で埋め尽くされた。明斗は柔造たちが追跡の困難さに悔しそうにしているのを背後で見ていたが、そこへ八百造のよく通る声が聞こえてきた。
いつの間にか竜士はいない。
「皆落ち着け!体勢を立て直す!」
「おと…所長」
柔造も動揺しているのか、八百造をいつもの呼び方で呼びそうになっていた。気持ちはよく分かる。
まさか藤堂自ら乗り込んでくるとは思わなかった。そして易々と、右目は奪われてしまった。蝮とともに。
するとそこへ、竜士の怒鳴り声が響いた。
「なんもかんも全部、あんたのせいやろが!!」
声のする方を見ると、人込みの中で、達磨の胸倉を竜士が掴んでいるところだった。達磨はいつも通りの飄々とした感じで、竜士は様々な感情をいり交ぜた表情だ。
「蝮の言う通り、裏切っとるんか!?」
「そ、そないなわけないやろ」
「せやったら、このみんながおる前で、今、ホンマのこと言うてくれや!!」
竜士の必死な声にも、達磨は苦笑しながら首を横に振った。
「それは秘密や。秘密は息子のお前にも話せへん。できれば一生話さんで済めばええんやけどなぁ」
なはは、と笑う達磨に、呆然として竜士は手を離す。怒りというより、なぜ、が先行しているようだった。
「あんた…この状況で何言うてんねん…」
「とにかく!今はそれどころやない、蝮を追わんと!竜士、お前はお母や先生の言う事よう聞いて、おとなしうしとるんやで、ええな?」
「…っ、親父面すな!!!!」
調子の変わらない達磨に、ついに竜士は一番の怒声を浴びせた。その剣幕に、祓魔師たちの間でもざわめきが広がる。ただの喧嘩では済まない、あまりの剣の強さを感じてのことだろう。
「このまま何も喋らんで行く言うんなら…あんたは金輪際、親父でもなんでもないわ!!!」