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昔から、竜士は達磨に対して様々な感情を抱いていた。騎士團に入らないことについての不満はすさまじく、それは蝮のそれとよく似ていた。
学園に入るというときも大いに揉めて、竜士は両親に何も言わず勝手に出願し、特待生になって学費を免除してもらい、勝手に入学した。
勉強だけでなく、竜騎士になるために体作りにも励んでいて、ランニングや筋トレをしていた。それに付き合っていたこともしばしばだ。
達磨に近い柔造やアホの金造、やる気のない廉造と違って、年齢が近く立場上少し妙陀と距離があった明斗は、竜士にとっても話しやすい相手だったようだ。小学生のときから標準語でいかつくない明斗は竜士たちに関することでよく渉外に当たっていたこともある。
だから、竜士の想いも、達磨への不満や確執も、かなり聞いていた。
妙陀宗の危機である今回のことで、それらがすべて一気に噴出しているのだろう。
自ら縁を切るとまで言った竜士に、達磨はそれでもなお笑って見せた。
「…ほな私は行くな。堪忍してや」
「っ、!!」
縁を切ると言ってもなお、それも実に簡単に呆気なく、達磨は踵を返した。竜士のことは愛しているはずなのに、まるで縁が切れてもいいと言っているかのような簡単さだ。
愕然とする竜士の心の衝撃を思うと、明斗ももっとやり方があるのでは、と達磨に不信感が募る。
とその瞬間、達磨の法衣を不良よろしく引っ掴む少年がいた。一瞬で現れたのは、燐だ。
「待て」
「奥村!?」
「なんで行くんだよ!あんた勝呂の父ちゃんだろ」
達磨も竜士も驚きで目を見張る。そして燐は、法衣から手を離すと竜士を振り返った。
「それに、勝呂てめぇは!!!」
「!?」
突然、燐は竜士を思い切り殴り飛ばした。竜士は何メートルか吹き飛び、口から血を飛ばす。一瞬、燐から青い光が漏れて、体がざわついた。
柔造が焦ったように「坊!」と呼ぶが、明斗は体内に戸惑った。何かとんでもないものを前にしたような、そんな焦燥感にも似た何かだ。
「詳しい事情は知んねーけど、後で絶対後悔するから言っといてやる!父ちゃんに謝れ!今のうちに!!」
「関係ないやろが!!黙っとけや!!」
「親父を簡単に切り捨てんじゃねぇ!!」
「お前に言われたないわ、親父倒す言うとるヤツに…!!」
燐の叫ぶような言葉は、明斗の方がよく伝わった。燐は明斗と同じ悪魔の血を引く者で、やはり苦労してきたようだった。もしかしたら、燐は父親を切り捨てたことがあったのかもしれない。
明斗は切り捨てられた側だから、完全にはそのニュアンスは分からない。これは似て非なるものだ。なぜなら、切り捨てるという能動的な方が、自身の選択によって避けることができたはずだからだ。避けようがなかった明斗と違い、まだやり直せるのが竜士だ。
アプローチは違えどそれを実感を持って理解している燐だからこその言葉だ。
ただ、竜士の言ったことが分からない。「親父倒す言うとるヤツに」という言葉だ。そこで、蝮が言っていたことに明斗がまさかと感じていたことが首をもたげる。
ひょっとして、燐は。
そう思ったところへ、達磨がとりなしにかかる。
「ま、まぁまぁ、燐君も竜士も、ここらで仲直りや、な?」
「あんたはどこへでも好きに言ったらええやろ!二度と戻ってくるな!!」
それを聞いた燐が、怒りに肩を震わせる。その途端に、急速にエネルギーがみなぎるのが分かった。悪魔にしか感じられないものだ。
咄嗟に危険を感じた明斗は、他の者が事態を分かっていないのを横目に駆けだし、竜士の前に向かう。
「見損なったぞ勝呂ォ!!」
燐は突然、青い炎を勢いよく噴き出した。忌々しいサタンの象徴と呼ばれるものだ。
竜士に近寄る燐は炎を纏ったまま。竜士は被甲護身の印によって結界を出現させ、それに燐は腕を突き立てた。
「俺だってなぁ…好きでサタンの息子じゃねーんだ!!」
ざわめく祓魔師たちの上をジャンプして、風の力で飛び上がるとすぐに竜士の前に着地する。その瞬間に竜士の結界が破壊され、燐の手が伸びる。
「竜士様ッ!!」
「っ、明斗、!」
明斗は竜士の前に飛び出ると、燐の手を左腕で受け止めた。燐の炎を纏った手が、明斗の法衣越しに腕をつかみ、直接手首を掴んだ。服に触れているところはいいとして、手首は直接炎が当たり、ジュッと焼ける音とともに激痛が走った。興奮した燐は気づいていない。明斗越しに竜士を睨んだ。
「でもお前は違うだろーが!!違うだろ!!」
「坊!明斗!」
そこへ、柔造も錫杖を持って割り込んだ。燐は柔造に跳ね飛ばされ、明斗も柔造に後ろに押され竜士に抱き留められる。
間違いない、燐は、サタンの息子だ。