京都不浄王編/復活と討伐
●京都不浄王編4
青い炎を纏う燐、その後ろで驚く達磨。明斗の肩を抱いて心配そうにする竜士と、2人の前で燐に対峙して立ちはだかる柔造。
「明斗、坊を連れて逃げるんや」
「柔造、明斗は怪我して…!」
「大丈夫です、竜士様。早く、」
痛みに顔をしかめながら答える。普通の怪我ならもう回復が始まるが、やはりサタンの炎だけある、まったく治る気配はなかった。分かっていたが、サタンの炎がダイレクトに作用するのは悪魔に対してであり、それは想像よりもはるかに痛かった。
それを見て燐は、明斗が悪魔の血を引くことを思い出したらしい。自身のしたことに青ざめた。
「あっ、そういや、あんた…!」
「オン マニ パド ウン!」
「いっ、ぎゃああああ!!!」
明斗が腕を押さえながら竜士を連れて行こうとすると、シュラが聞きなれない真言を唱えた。仏教系の真言による詠唱と同じくサンスクリット語であることは分かるが、それ以上はまったく分からなかった。
そしてその真言が唱えられると、突然燐が尻尾を押さえて苦しみだした。シュラの詠唱は続き、燐は息も絶え絶えになりながら四つん這いになる。
そこへシュラも屈んで何やら言ったが、燐は聞かなかったようで、再びシュラが詠唱をした。それによってついに燐は意識を失い、床に倒れ込んだ。
「おーい!誰か!こいつを隔離するの手伝ってちょ。もう気絶してるし大丈夫だよ」
呆然と見守る祓魔師たちに、シュラは明るくそう言った。異様な事態に沈黙が続く。そこへ、蟒に支えられた八百造が近づいた。
「霧隠隊長、ゴホッゴホッ…」
「所長!お騒がせして大変申し訳ありません!」
「この件について、後で当然ご説明があるんでしょうな…」
「はい*もちろんです!」
シュラはまったくもって普通の飄々とした態度を崩さない。八百造も、青い炎に関しては後でいいと冷静だった。八百造にしてみても、父と息子の命を奪った炎であるが、今は一刻を争う。
「ならええですわ…来い、柔造、明斗」
「はい、」
「な…っ、ちょお待ってください、あの炎は…!」
「柔造、今優先すべきは右目の行方や」
ことが収まったため竜士を守る必要もない。八百造は柔造と明斗を呼んだ。一方で炎に気を取られたままの柔造は食い下がるが、八百造がこっそりくい、と指で招くと、内密の指示だと察して黙った。2人で八百造の側に寄る。
「ええか2人とも、和尚の後を追うんや」
「和尚の…?」
「今できる限りのことをするんや。くれぐれも見つからんようにな」
「…は!」
「はい」
2人は頷くと、達磨の後に続いてゆっくりと廊下を進みだす。あとをつけているのがバレないよう、ほとんど止まりながらだ。
そこで明斗は倒れる燐を見る。サタンの息子、懲戒尋問において騎士團も存在は把握していることだろう。野放しなのは何か理由があってのことか。シュラは監督者だろう。
火傷のようになった自身の左手首を見る。少しずつ回復がようやく始まったようだが、依然として引き攣ったような痛みがあった。
「明斗、ホンマに大事ないか」
その目線に気づいたのだろう、竜士が気づかわしそうに心配してくれる。
「大丈夫です。俺の場合はどうせすぐ治ります」
明斗は手首から目線を外すと、竜士の近くに行って、その手を握って近くで目を合わせる。
「竜士様。達磨様のこと、蝮姉さんのこと、いろいろと思う事はあると思います。でも、常に冷静に。悔いのない選択肢を選んでください」
「明斗…」
今まで竜士の側で様々な話を聞いて、ともにいたからこそ、明斗の言葉に竜士は驚く。明斗は意見を述べるというより、竜士の感情に寄り添ってきただけだからだ。だからこそ、きちんと明斗の言葉はまっすぐに竜士に伝わったようだった。
「…あぁ。気ぃつけろよ、明斗」
「竜士様も」
きっとじっとしていられないだろう竜士に、くれぐれも無理をしないで欲しいと思いながら、明斗は達磨のあとを追跡するため踵を返した。