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電話で出張所の玄関に人を集めるよう頼んだ明斗は、柔造たちの前を先導しながら走った。金剛深山から発せられる禍々しい気は、一定の強さでとどまっているようだったが、それも突然潰えて拡大し始めた。いったい何が達磨に起こったのか。
そもそも、蝮とともにいたはずの藤堂の姿がなかった。
様々な疑問を抱きながらも、何とか明斗たちは出張所に駆け込んだ。すでにざわめきが広がっており、かなりの数が集まっているのだと分かる。
明斗が扉を勢いよく開くと、中に集まっていた祓魔師たちが驚く。先頭にいるのは八百造と蟒だ。
「明斗!」
「ただいま戻りました」
一応挨拶した直後に、柔造も中に飛び込んだ。すぐに蝮を下ろすと、目から血を流して立ち上がる蝮にさらに祓魔師たちはどよめく。
柔造の隣に控えると、蝮はせき込みながらも語り始めた。
「私は、裏切り者やけど…これから話すことだけは、聞いて欲しい」
そこへ、外から駆け寄ってくる足音。気配で竜士や廉造、子猫丸と分かった。他の軽い足音は塾生たちだろう。当然ながら燐の気配はない。竜士たちは大人に気圧されたのか、玄関の外で立ち止まった。
「先ほど、私と藤堂三郎太は…右目と左目を用いて…不浄王を復活させた!!」
蝮が言ったとたん、祓魔師たちは大きくざわついた。江戸時代に倒されたはずの悪魔のはず、という声が上がる。
「金剛深山の不動峯寺の下に仮死状態で封印されとったんや…」
そんなものがずっと山の地下にあったのかと思うと明斗は途方もないスケールに気が遠くなる。左目の存在すら隠されていたのというのに、さらには不浄王そのものが封印されていたなど。
がやがやとする祓魔師たちを「静かにせぇッ!」と柔造が一喝する。
「現在、妙陀宗座主、勝呂達磨様が、1人残って戦っておられる…」
明斗は一瞬、結界らしきものによって不浄王の拡大が収まったものが、その後再び拡大し始めたこと、姿が見えなかった藤堂のことなどを言うべきか迷った。しかし背後の竜士の存在に思いとどまる。
すると蝮は、おもむろに床に手をついて、土下座に近い格好になった。
「どうか援軍を…!不浄王を、倒して欲しい…!!」
何を勝手な、第一どうやって、様々な声が上がるが、それ以上は八百造がさえぎった。
「今はそないなことを議論しとる場合やない!祓魔は全隊、警邏は一番と二番、深部は一番まで!不浄王討伐に出発する!!!」
刻一刻と瘴気を噴き出す不浄王。かつて日本において4万の命を奪ったが、現代の京都では上京区から北区だけでそれくらいの数になりかねない。世界的観光都市である京都での被害は想像もつかなかった。
八百造の号令によって祓魔師たちが一気に出張所に散り支度を開始する。八百造は明斗を振り向くと、明斗にも指示を出した。
「明斗は柔造とともに祓魔一番に合流や。腐の王の眷族トップの悪魔、気の王の属性である明斗は不利やさかい、烏枢沙摩の力を借りる僧正血統の援護に当たれ」
「はい」
魔元素理論では、気は腐に弱い。逆に火は腐に強く、気は火と相性が良い。もともと剣による近接戦が主体のため、風の力による増強と銃火器による援護射撃が明斗に求められる役割となる。
八百造が去ると、竜士たちが入って来た。それに気づいた蝮は、竜士に縋りつく。
「竜士、様…!」
「っ、おまえ、右目が…」
「ごめ、ん、なさい…!和尚を…和尚を助けて…!」