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愕然とする竜士にも、涙を流す蝮にも、とても達磨の安否に懸念があることは言えない。迷っている間にも、柔造は蝮を抱え上げた。運んでから一番隊に合流するという。


「明斗、先に裏門に集合しとってくれ」

「了解」


明斗は持っていた柔造の錫杖を引き続き抱えた。柔造の姿が角を曲がって見えなくなると、竜士が明斗を呼び止めた。


「明斗、」

「はい?」

「…親父は、どないなっとる」


静かに、いろいろな感情を押し殺すように尋ねた竜士の声は、かすかに震えていた。当たり前だ。子猫丸は気づかわしげに、廉造も硬い表情になっている。


「…さぁ。こればかりは、現場を見ないことには何も確たることは言えません。でも…」


懸念はあるが、結局それ以上のことは明斗にも分からない。何が起きているかなど、終わって見なければ分からないのだ。
ただ、一つだけ言える確かなことがある。明斗は竜士の前に歩み寄った。


「達磨様は、最善を尽くしておられます。京都を、妙陀宗を、虎子様を、そして何よりも、最愛のあなたのことを守るために。その最善が達磨様自身の生存のための最善と必ずしも一致するわけではないことは、竜士様も分かってると思います」

「…、」

「俺は、必ずことが終わったら竜士様に叱られるよう達磨様に言いました。でも、達磨様は頑固なお方です。…竜士様に、よく似て」


苦笑しながら言うと、明斗は竜士の額に手を伸ばし、眉間の皺を親指で撫でた。その手首には、いまだに燐の炎による火傷跡がある。竜士は明斗の指が触れると、一瞬泣きそうな表情になった。

するとそこへ、シュラが駆け寄って来た。声がかけられたので明斗も振り返ると、シュラは「あっやべ、」という顔になる。
その腕には服が抱えられ、さらに手には、剣が一刀。あれは、紛れもない魔剣・倶利伽羅だ。初めて見たが、剣からは燐に感じるものと同じものを感じる。

そこに、蝮が言っていた、サタンの子を生かすために倶利伽羅が使われているという話を思い出した。そして燐は独居坊に隔離されている。燐の炎はサタンの炎、莫大な力は、明斗の手首が証明する通り、悪魔に有効だ。これといって倒す手立てがない不浄王は拡大している。

これだけ情報があれば、シュラの画策などすぐに分かった。本部直属の祓魔師であるシュラにはできない、燐の脱獄を候補生たちにやらせるつもりだ。その燐の炎によって、不浄王を焼き払うというのだとすぐに思いつく。


「あー、あんたは志摩家の…」

「…志摩明斗、上二級です。…ちょうどよかった、一瞬お耳をお借りしても?」


シュラに尋ねると、シュラはばつが悪そうにしながら頷いた。倶利伽羅を持って歩いているところを妙陀宗の人間に見られたのだ、何を言われるのかと面倒に思っていることだろう。
候補生たちから離れ、明斗はシュラに小声で話した。


「単刀直入にお聞きします。奥村燐君を彼らに脱獄させるつもりですよね。その、燐君の力を感じる倶利伽羅とともに」

「…こ、今回は見逃して欲しいなぁ〜」


シュラは目を泳がせている。竜士たちを危険なことに付き合わせるのだ、妙陀宗として看過できないと言われるのだと考えているのだろう。普段なら確かにそうだ。


「…俺は、悪魔の血を直接引いています。だから志摩家に養子入りしました。燐君はサタンの血であっても、彼自身が悪い人間だとは思わない。あの不浄王に有効なら尚更です」

「…おっ、そうなのか。話が分かるヤツで助かったにゃぁ」

「時間がないので一つだけ。勝呂達磨様は、恐らく結界を張って食い止めようとしましたが、不浄王の拡大が収まった直後、再び不浄王は拡大を開始しました。それも、藤堂の姿は見ていません。つまり、達磨様は…」

「…危険かもしれないってことだな」

「はい。様々な秘密を握る達磨様なしに不浄王は倒せません。どうか…」


シュラはひとつ頷く。彼女も同じ見解だったようだ。


「分かった。燐のことと達磨和尚のことはあたしがヤツらに指示する」

「頼みます」


明斗は素早くそれだけ言うと、急いで廉造のところに走った。少し驚いている廉造の頭をぽんと撫でる。


「竜士様をお守りするのは当然として。廉造自身もくれぐれも気を付けて。全員、何かあったらただじゃおかないから」

「…おん、任せたってや、アキ兄」


竜士だけではない。廉造自身にも何事もなくいて欲しいし、子猫丸も、名前の知らない候補生の子たちもだ。明斗とシュラの様子に少し察している廉造は素直に頷いた。
明斗も頷き返すと、すぐに裏口へ走る。明斗にできることは、少ない。だがここからは、全員が等しく戦うのだ。1人ではない。


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