兄弟


●5年前
金造(15)・柔造(19)×夢主(13)



「新しい家族や」と柔造に紹介された明斗は、金造にとってよくわからない存在だった。3歳年下の少年は、自分がその頃だったときよりも遥かに大人びていて、子供らしくなく、だからどう接したらいいのか分からなかった。
色々と複雑な背景があったことも聞いた。可哀想だな、とも思った。しかし、それだけだった。
紹介された当時は、金造も中学2年という多感な年頃だったこともあり、家にやって来た突然の異物に違和感も感じていたように思う。

それに、金造にとってその弟は、触れてはいけない、触れたら壊れてしまいそうにも感じた。

ある日、明斗の部屋がある離れからとんでもない轟音が響いたため、慌てて金造は走って離れに駆け込んだ。すると、室内は家具が倒れ壁や障子も壊れ、あらゆるものが傷付いていた。その真ん中で明斗が怯えたように泣いていたのだ。

金造は突然の惨状に何もできず、ただ呆然とした。そこに柔造が母屋から走りよってきて、慣れたように「大丈夫やで、明斗」と言いながら室内に躊躇いもなく入っていった。


「金造、離れとき」

「一体なんなん」


それには答えず、柔造は手を広げて明斗に近付く。明斗は泣きながら首を横に振り拒絶する。しかし柔造は気にせずに進み、そして、突如として猛烈な風が明斗から吹き荒れた。窓ガラスが割れる鋭い音や、障子が吹き飛んで庭に落ちる激しい音が響く。
咄嗟に金造は柱の影に隠れたが、柔造は避けもしない。直撃した柔造の体のあちこちから、血が流れていた。最近生傷が多いと感じていたが、その理由はこれだったようだ。


「ごめ、ごめんなさい…!」

「何ともあらへんよ、大丈夫」


そうして柔造は明斗を抱き締める。明斗の力が抑えられていないのだと聞いていたが、これほどとは思っていなかった金造は恐怖を感じ、それが恥ずかしかった。柔造は男らしく受け止めているのに、こそこそ隠れてしまったことや、歩み寄ろうとしなかったこと、それが金造にとっては恥に感じられたのだ。
泣いている明斗は、少し間違えたら風船のように弾けてしまいそうで。儚いものに見えた。寄る瀬がなく、頼るものがいなかった子供。


「柔兄は怖くないんか」


一度、金造はそう訊いてみたことがある。すると柔造は何でもないように笑って答えた。


「やって、俺は明斗の兄ちゃんやし。金造かて兄貴なんやさかい、守ってやらなあかんで」


そのとき、金造はハッとした。明斗は金造の弟。自分は兄なのだと。
だから、金造は明斗に兄として接したかったのだが、明斗はやはりよく分からない子供だったし、力の制御ができるまでは母屋で暮らすことはできなかったから、なかなか接する機会もなかった。

そして、ようやく明斗が力をコントロールできるようになって人前に出られるようになった頃、転機が起こった。


***


それは、志摩家の分家などが集まった親族会議でのことだった。
明陀宗に入っているかどうかは別に、京都市内や地方に散在している一族が集まって近況報告を行う会である。一応、名門に属するお家でもあるため、本家である金造たちの一家に対しての親族たちの視線は厳しい。落ちぶれた寺の僧正血統にしがみつくだけの、無資産階級だと認識しているのだ。それなのに、江戸時代から京都郊外に土地をいくらか持っていて、賃貸収入すら得ていないのだ、宝の持ち腐れもいいところ。仏法僧で営利目的の金稼ぎは原則禁止だからなのだが、信仰を持たない分家筋は持ち腐れている土地を何とか本家から離して旅館経営などに回したいらしい。

そのため、分家筋は常に本家の粗探しに必死だった。いつも八百造がすべて躱していくのだが、その回は別だった。

新年、15歳の金造は正装の藍色の着物を纏う。すると、同じ着物に身を包んだ明斗が姿を現した。13歳ながら、着物に着られているようなことはない。


「明斗も出すんか!?」

「そら家族やからな」


柔造はやはり何でもないように言う。八百造も認めているようだ。だが、金造は顔を険しくする。


「何考えてんねん、絶対集中攻撃されるやろ…明斗が可哀想やないんか」

「明斗が志摩家なんやってことを示さなあかん」


それに答えたのは八百造だった。当主の言葉に金造も押し黙る。頭はよくないし、祓魔塾での成績も危ういが、これくらいは分かる。明斗を守るために外へ出さないのと、家族として人目に晒すこと、どちらも楽な道ではないのだ。
無表情で着物に身を包む明斗はやはり、儚く感じられた。


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