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とてつもない爆風が森に駆け抜ける。柔造はその中ですっと地面に着地し、明斗が撤退させた2人も無事だ。雪男たちも離れた場所で待機している。
煙が晴れると、藤堂が笑顔ながら呆れたようにしていた。


「まったく、何度言ったら分かるんだね。ちゃんと考えてから行動を起こしなさい…!短気は君の学生時代からの悪い癖だ、そこ直した方がいい」

「いいや、これ考えたんはそこのメガネ君や」

「なに…?」


柔造がニヤリとした瞬間、藤堂の体がパチパチと音を立てて弾け始めた。次第に形が崩れていく。


「この現象は…!」


容量オーバーだ。
次の瞬間、藤堂の体はその大きさからは釣り合わない大爆発を起こした。先ほどの火生三昧やそれまでの攻撃を含めて、一気に放出されたのだ。
再び爆風が吹き荒れ、明斗たちも飛ばされる。明斗はなんとか風によって防御するも、柔造たちは地面に倒れるほどの爆風だった。


その爆風が去ると、藤堂の下半身は消滅し、上半身だけが地面に立っていた。それでも藤堂は笑みを浮かべている。


「なるほど、オーバーヒートを狙っていたのか。食べすぎは禁物ということだね、いい勉強になったよ。だが、迦楼羅の再生能力を舐めてもらっては困る」


そう言って回復を続けようとしたが、藤堂の腕が突然ボロりと地面に落下した。それに藤堂は目を見張る。そして、重くなった体に打ち付ける水滴に気づいた。


「そうか、雨…!」

「不死鳥といえど、灰が水に流されてしまえばそう簡単に回復できない」

「まいったね君には。まさか、こんな…お、おお、」


言葉が終わることはなく、藤堂の体はついにすべて崩れ落ちていった。沈黙する空き地には雨の降りしきる音と、本隊からの戦闘音だけが響く。
見れば、いつの間にか赤い結界が大きく不浄王を覆っており、誰か上級の祓魔師がやったのかと検討をつける。中の様子は分からないが、もうすでに胞子で満ちているようにも見える。
まだまだ作戦は途中だ、藤堂のことはいち早く解決させたい。


「やったんか…?」

「時間稼ぎにはなるでしょう。一刻も早く体の部位を拘束しなければまた回復してしまいます」


雪男が冷静に言うと、柔造は千草と熊谷に本隊からの応援を呼ぶよう指示した。雪男は柔造を起こそうと手を貸す。
しかしその瞬間、雪男の背後に灰の塊が立ち上がった。


「っ!奥村君!」


叫んだ途端、いつの間にか空き地全体に散っていた灰が一番隊の面々を拘束した。明斗の足元からも灰が伸びてきて、地面に引き倒される。


「ぅぐ、!?」


両腕両足を拘束され、視界を塞ぐように目の前にも灰の塊が現れたため、雪男を助けるために狙って鎌鼬を起こすこともできない。迂闊にやれば誰に当たるか分からなかった。
拘束されていないのは雪男だけらしく、藤堂と1対1の戦いが始まる。

何とか手助けしたいが、明斗は動くことも遠距離攻撃を仕掛けることもできない。銃声があいついで響き、不浄王からの戦闘音が激しくなったこともあって、雪男たちの会話は分からない。声はするのだが、内容までは聞こえてこなかった。
ただ、必死な雪男の声に心配になる。何か迷っているような、惑っているような、そんな必死な声だ。

そんなもどかしい時間が数分続いたところで、突然拘束していた灰が解けた。急いで立ち上がると、雪男が何度も銃弾を地面に撃ちつけているところで、他の面々も何とか立ち上がっていた。


「…大丈夫かメガネ君」

「…ええ、それよりヤツはすぐ回復します。ここは一刻も早く逃げましょう」

「分かった、本陣はあの結界ん辺りや」


決着がついたわけではないが、雪男はなぜか不自然に凪いだ声で言った。柔造は気にしながらも、柳葉魚を担ぎ、熊谷は鳴海を、雪男は南を担いだ。千草と明斗はフリーで走り出す。
一行は急いで森の中を結界に向けて走り出すが、その結界も、途中で消滅する気配がした。

それだけではない。突如として不浄王の方から、あのサタンの力の気配を感じたのだ。間違えようもない、これは燐だ。どうやら候補生たちは燐の救出に成功したらしい。
燐の力の気配はどんどん大きくなり、それはついに森の中からでも上空に見えるようになった。
青い炎で作られた火生三昧だ。


「あの形火生三昧!?俺が呼び出したヤツとはけた違いや…いったい何が…ってメガネ君!?」


そう柔造も驚いていると、おもむろに雪男は南を地面に捨て置いて走り出した。血相を変えて不浄王に向かって走りだす雪男。燐のことだろうか。
戸惑いながらも、明斗は雪男に代わって南を背負い、再び一行は走り出す。

すると今度は、不浄王の方から急速に接近してくるものがあった。すぐにそれは森の前方に姿を現す。まるで津波のように押し寄せてくるのは、青い炎だ。
一瞬明斗は肝が冷えるような心地がしたが、なぜか炎からは邪悪な感じがしないというか、明斗に対して敵意のあるものではないと感じられた。


「っ、明斗!」


柔造は焦るが、明斗は柔造の手を握る。


「大丈夫、あれは、もっと優しいものだよ」


その瞬間、一行は青い炎に飲み込まれた。燃えている。しかし、燃えていない。空気中に漂う瘴気が消滅していくのが分かる。おそらく、これは不浄王だけを燃やしているのだ。


「な、なんやこれ…」


驚く柔造たちの隣で、明斗は心地よい炎の中で前方の空を見上げる。燐の優しさを体現したような炎だ。


(…良かった。君はもう、大丈夫なんだね)


あの迷っていた様子で出せるものではない。燐は自身で何かにけじめをつけて、心の整理をしたはずだ。だから、こうやって優しい炎を出すことができた。
同じような境遇だったからだろうか、明斗は、燐がそうやって前に進めたことに、ひどく安心したのだった。


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