ずっと一緒に
●不浄王討伐数日後
ようやく不浄王との戦いの処理も終わり、東京からの増援隊も帰京した。京都には平穏が戻り、出張所は建物の改修が開始された。
そうやって事件前の日常が戻りつつあるのに対して、明斗の内心はまったく穏やかではなかった。理由は簡単、先日、廉造と話す中で自身の柔造に対する気持ちを理解してしまったからだ。
恋愛の意味で、柔造が好き。
それは、兄弟として許されない感情であり、家族として明斗を迎え入れてくれた柔造の気持ちを踏みにじるものだという罪悪感があった。
この感情を抱いていることそのものが、明斗にとっては非常に重い罪だと思えたのだ。
その苦しさが、鉛のように明斗の中にずっと居座っており、気分が悪くなりそうだった。
それでも通常通り業務はある。特に、深部担当が必要なくなった上に不浄王との戦いで洛北の悪魔が活発化したため、最近の明斗の仕事はもっぱら祓魔ばかりで、そうなると柔造がいつも通り明斗と2人で行こうとするのだ。
ここのところは一番隊として動いているからまだいいが、次2人きりになったら明斗はどうしたらいいか分からなくなるかもしれない。
いや、どうもしないのだが、こうもずっと動揺したままだと、さすがに支障が出る。
「あっ、明斗!」
悶々としながら出張所の廊下を歩いていると、あまりにタイムリーに柔造がやってきた。嬉しそうな顔をしているのは、久しぶりに2人で任務に行けるときの顔だと長年の経験で分かっている。
「今日は2人でええって所長が言うとったさかい、2人で討伐デートしようや」
デート、それはあのマンガの中でも頻繁に登場していた恋愛ワード。そして、今の明斗にとって恋愛に関する言葉は軒並み地雷だ。
「え、と…」
どうしよう、と思っていると、廊下の先から見慣れた一番隊の2人が歩いてくる。柳葉魚と鳴海だ。
明斗はさっと柔造から離れると、2人の後ろに回った。明斗より背の高い2人に隠れるようにして、2人の背後から柔造に返答する。
「今日は俺、柳葉魚さんと鳴海さんと行く」
「明斗!?」
「えっ、隊長!?明斗さん!?」
「ど、どないしたんですか!!」
驚く2人には申し訳ないが、明斗は正直、けじめをつけるにも限度があるので、柔造と2人は避けたかった。2人でいいなら、明斗とこの2人、もしくは柔造とこの2人でも戦力的には問題ないはずだ。
「な、なんでなん明斗」
「えと…ほら、この前の戦いで、一番隊の人との連携もっと深めたいなぁって思って…」
明斗は柳葉魚と鳴海の腕をそっと掴んで顔を隠す。2人は特に拒否する素振りもないが、柔造が近づいてくると体をこわばらせた。
「ほぉ〜…柳葉魚、鳴海、お前らまだ明斗との連携足りてへんのかいな」
「え、えええええ」
「隊長、お、落ち着いて、」
柔造は笑っているが、目が笑っていない。謎の圧力をかけられる柳葉魚は理不尽さに動揺し、鳴海も慌てて柔造を諫めるが、柔造は聞いちゃいない。
「じゃあ俺と先に連携深めようや、なァ?」
「ヒエッ…」
そして柔造はそう言うと、柳葉魚と鳴海を連れて任務に向かってしまった。置いて行かれた明斗は、ひとまず逃れられたことに安堵するが、毎度こうして犠牲を出していては出張所の人々から恨まれてしまう。
(剛兄みたいに英語できればぁ…)
兄の1人、剛造は英語が堪能ため、しばしば海外の出張所に出向する。不浄王の一件以降は、八百造と達磨の命によってインドにいた。藤堂に憑依した迦楼羅を引きずり出す方法を模索するためだ。
剛造のように語学さえできれば、明斗も海外に逃げられる。
いっそ、東京の所属になってしまおうか。明斗は柔造と物理的距離を置いて、この気持ちを少しでも小さくしたいと、そればかり考えていた。ただ、それを考えれば考えるほど、柔造と一緒にいたいという気持ちが沸いてきてしまって、明斗はもっと苦しくなってしまうのだ。