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さらに数日が経過すると、いよいよ明斗は考えるだけではいられなくなって、ついに自身から異動を頼もうという考えに至った。
何度か柔造と2人で任務に出ようと誘われては、別の祓魔師との任務があると言って避けてきたが、断る度に傷ついたような、寂しそうな柔造の顔を見ると、罪悪感で胸がはちきれそうだった。
それに、この気持ちも柔造を見るたび膨らむ気がして、耐えられなくなっていた。
「…父さん」
そして明斗は、出張所の所長室に向かった。1人で業務をしている八百造に声をかけると、八百造が顔を上げる。
「おう、どないした」
「あの、俺、東京か別の出張所に転勤できたりしないかな…?」
「転勤?また何を言うとるんや」
突然の話に八百造は困惑する。当たり前だ、脈絡のないことこの上ない。明斗自身も、強く他に転勤するべき理由などあるわけもなかった。
「その…経験値、的な…?剛兄みたいに色んなとこ行けたらって…」
「国外ならまだしも、国内で転勤したところで経験も何もあらへんやろ。やることはどこも変わらへんのやで」
「そう、だけど…」
明斗自身が自分でもあやふやなままだと八百造も分かったのだろう、困惑しながらもきっぱりと拒否した。
「何考えとるのか知らへんけどな、今は京都も忙しいさかい、おとなしくしとれ」
「…はい」
八百造の言う事は至極もっともだ。それでも俯いてしまうと、八百造はため息をつく。
「柔造との任務も、最近行ってへんのやろ。一番隊中心に、普段と違う編成で行くことが多いのは知ってんねんで」
「…、」
「柔造と明斗の2人は、一番人員が小さく最大の功績を上げられる、出張所でもトップクラスのコストパフォーマンスの組み合わせや。まだ不浄王討伐から傷も癒えきってへんのやさかい、慣れない編成変更は怪我のもとや」
「返す言葉もないです」
「それともなんや、柔造と喧嘩でもしたんか。もしくは柔造になんかされたんか」
「まさか!」
まったく柔造は悪くない。すべて明斗悪いのだ。明斗の心の弱さが、柔造を傷つけ、出張所に迷惑をかけている。それにまた罪悪感が募った。
ぐるぐると考えていると、八百造は立ち上がり、明斗の頭にぽんと手を乗せた。
「なんや難しい顔しとるな。悩み事か?」
「…まぁ、はい」
「柔造に関することなんやろ」
「…はい」
「せやったら、和尚に相談してみい」
八百造が言ったことが少し意外で、明斗は顔を上げる。八百造は苦笑していた。
「普段は柔造が明斗の悩み聞いとるやろ。俺は恥ずかしながらそういうんに疎いし、張本人に相談するわけにもいかへん。せやったら、和尚に聞いてみればええ。あの方が、なんやかんや言うてきちんと『和尚』なんやて明斗も知ったやろ」
不浄王の事件で、達磨が多くの秘密を抱えていたことを皆が知った。そして、ちゃらんぽらんのようでいて実はとてもしっかりとした坊主なのだということも。
だから、明斗も素直にうなずくことができた。あの人好きのする人に相談するというのは、なんだかとても自然なことのように思える。もしかしたら、無条件にそう思わせられるというのはとてもすごいことではないだろうか。
明斗は礼を言ってから、八百造に和尚の場所を伝えられ、最近手伝っているという旅館に向かうことにした。