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体を揺さぶられる感覚で、明斗は目を覚ました。達磨に話を聞いてもらう中でつい泣いてしまい、その末に寝てしまったのだ。
まずい、と思って起き上がると、目の前には端正な男前。


「お、起きたか」

「…っ、柔兄、」


なんと目が覚めると柔造がいた。達磨はいない。迎えに呼んだのだろうか。あの話をしたあとにわざわざ柔造を呼んだのだとすれば、恐らく達磨は2人に話すよう仕向けたのかもしれない。


「ごめん、寝ちゃって…そろそろ夜ご飯だよね、もどろっか」

「せやな。でも、もうちょい」


柔造はそう言うと、おもむろに明斗の腕を引っ張った。いきなりのことで抵抗もできず、明斗は柔造の胸板に倒れ込む。


「う、わっ、」

「あ〜、久しぶりの明斗や〜」


筋肉質な体に抱き締められ、慣れた温もりと匂いに包まれ、明斗は動揺する。柔造と突然こんな距離になれる心の余裕が今はなかった。
普段なら抵抗しないが、明斗は逞しい胸元に手をついて体を離そうとした。


「ちょ、柔兄、離して」

「…せや、明斗、この前頼んだマンガのあらすじ教えてくれへん?」


きちんと柔造は明斗のことを察してくれるから、いつもならこうすれば柔造は明斗の望む通りに動く。しかし、柔造はあえてなのか、手を離さずにまったく関係のない話を始めた。つまり、明斗の要望を聞く気はないようだ。
仕方なく、明斗は柔造に返答することにする。


「高校生の男女の恋愛」

「そないなこと表紙で分かるわ。どないな話やったん?」


適当なことを言って逃がしてもらえるわけもなく。明斗は渋々、きちんと話すことにした。


「主人公の女の子が、初めての本気の恋愛の中で、マイナスな感情やどうにもならない事実とかを前にしながらも、それでもなお上回る感情でもって相手の男の子と繋がろうとする話」

「おっ、ええ感じにまとめてくれたやん。おおきに」


まるで普段の報告のように理路整然と話すことによって早く話題を割らせようとすると、柔造は分かりやすいと褒めて明斗の頭を撫でる。いつもなら心地よいそれも、今は居心地が悪い。


「柔兄、」

「なぁ、明斗。俺な、その女の子の気持ちようわかんねん。本気の恋って、綺麗なモンやなくて、嫌なこともつらいこともあるのに、それでも好きなんや」

「…?」


気持ちが分かる、というのは、同じ経験があるということだろうか。明斗はずきりと胸が痛むのを感じる。


「それが…?」

「本気でそいつんこと愛しとるとな。色んなことが小さく見えるんや。性別が同じってことも、兄弟やっちゅうことも、次期当主いう立場んことも。そないなことどうでもよくて、それだけ好きなんや」

「え……は、ちょ、それ、」


柔造が言うことは、やたら具体的で、しかも同性の兄弟という条件まである。何を言うのかと明斗は愕然としてしまった。


「俺も臆病風吹いてもうてな。先に恋愛のこと学ばせよなんて言うて、先伸ばして。そんで、困らせてもうた」

「柔兄…?」


明斗は、つい体を離して柔造の顔を見上げた。今回は柔造も抵抗せず、明斗の体を離して、こちらも至近距離で明斗の顔を見下ろした。


「好きや、明斗。お前のこと、世界で一番愛しとる」


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