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明斗はその言葉を聞いて、一瞬耳を疑った。柔造が言ったことの、理解が追い付かない。
柔造はそれくらいはお見通しなのか、優しい微笑みのまま、明斗の頬に指を滑らせた。節くれだった柔造の手が、ことさら優しく明斗の顔の輪郭をなぞるように撫でる。


「好き、好きや。愛しとる」

「じゅ、う兄……」


聞き間違いでもなんでもなくて、柔造ははっきりと明斗が好きだと、愛してると告げた。それが単なる家族愛というわけではないことは、話の流れでさすがに分かるし、何よりもその目が、如実に明斗が愛しいと全力で伝えてくれていた。

柔造も、明斗のことが好き。つまり、両想いというヤツだ。こういうときどうすればいいのだろう。「普通」なら、私も好きです、というように自身も気持ちを告げてハッピーエンドなのだろう。だが、明斗は柔造の弟で、家族だ。それは変わらない。


「…柔兄、俺たち、兄弟だよ。柔兄は次期当主なんだし、結婚して子供持たなきゃ…」

「ええやん、血縁ないし、そもそも男同士な時点でもう一緒や。それに、不浄王なき今、もう妙陀宗の血統主義にこだわる必要もあらへん」


2人の間には、様々なハードルがある。それを明斗は指摘したが、柔造は難なく超えてきた。本当はそんなに簡単なことではないと2人とも分かっているが、柔造はそれでも曲げるつもりがないのだ。
それだけ、強い気持ちなのである。


「…なぁ。明斗。明斗は俺のこと、どない思うとる?」

「…どう、って…」

「もちろん俺は兄貴や。家族やし、同僚でもある。それはええとしてな」


先回りされ、兄だ、とか仕事仲間だ、とか言う事は出来なくなった。柔造は優しく、今度は後頭部を撫でる。年上だからだろうか、その悠々とした態度と、先に柔造が気持ちを述べたこともあって、明斗は小さく言った。



「……すき、好きだ、柔兄のこと。同じ、気持ち」


少し声を震わせて言うと、柔造は一瞬口元を引き結んでから、ぐっと明斗のことを抱きしめた。後頭部に回っていた手が明斗の顔を柔造の胸元に押し付ける。少し息苦しいが、この強さで抱き締めるときは、柔造の強い感情の現れだと分かっている。
そんなことが分かるくらい、ずっと明斗は柔造の近いところにいた。


「明斗…ッ!!明斗、明斗…!」


柔造の苦しそうなほどに愛し気に名前を呼ぶ声が耳元で響く。それに感化され、明斗の涙腺が再び緩んだ。
分かっている。2人が結ばれたとして、そのあとに大変なことがたくさん待っていることくらい。それでも、好きだと思ってしまった。大事に思えてしまうのだ。

それが、本気で人を好きになるということなのだ。


「…俺、ずっと悩んでた。こんな気持ち、柔兄に申し訳が立たないって」

「それでずっと避けとったんか」

「うん、ごめん」

「謝るのはこっちや。俺が先に気持ち伝えんで保険かけたんや」


柔造はそう言いながら、明斗の背中をさする様に撫でる。


「ずっと悩んで、でも、それでも、俺は、柔兄と一緒にいたいって思っちゃったんだ。それが、つらくて…」

「……そうか、俺は、形より先に、明斗がどないしたいか聞かなあかんかったんやな」


柔造はそう言うと、少しを離して明斗の額に軽くキスを落とした。再び至近距離で目が合う。心なしか、柔造の瞳もいつもより水分量が多かった。


「つらい思いさせてごめんな。きっとこれからもつらいこと、ぎょうさんあると思う。でも、俺は…それでも、明斗と一緒にいたいて思う。一番近いところにおれたら、それでええ。明斗さえおってくれれば、それだけで十分なんや」

「…うん、俺も……柔兄と、ずっと一緒にいさせて欲しい…っ!」


柔造と一緒にいられればそれでよかった。交際という形はどうでもよくて、ただ、同じ気持ちなのであれば、ずっとともに寄り添いたいと思う。
どんな困難も、柔造と一緒なら超えられる。


「…愛してる、柔兄」

「俺も、永遠に愛しとる。明斗」


重なる唇。その直前に見えた中庭には、二つの灯篭の明かりが静かに晩夏の空気を照らしていた。


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