ハロウィーン


●ハロウィンネタ
柔造(23)、金造(18)×主(16)



明斗がエイプリルフールで柔造たちを驚かせた年の10月、今度はハロウィンなるものが世の中を騒がせていることを明斗は知った。東京の渋谷は大変な騒ぎになるらしい。テレビでやっていたそのイベントは、仮装して菓子を要求し、もらえなかったらイタズラをするという理不尽な内容だという。

さすがに仮装はできないな、と明斗は今回は見送ることにし、いつも通りの業務をこなすことにした。



***




すべての業務が終わり、報告書を仕上げて八百造に提出すると、明斗は帰宅するため出張所の廊下を歩く。夜勤組の出勤が始まっているが、時間としては夕食時である。

窓の外の空気感に秋を感じながら廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。


「明斗、」

「あれ、柔兄」


声の主は柔造で、後ろには金造もいる。2人してどうしたのか、と首を傾げる。


「帰りしなかいな」

「うん。2人も上がり?」

「せやで。そんでな、明斗」


柔造はやけに良い笑顔だ。金造もにやにやとしている。なんだろうか、と思っていると、柔造は法衣の懐から何かを取り出した。
それはカチューシャの上に猫の耳がついているもので、黒い色をしていた。いわゆる猫耳というやつだ。


「この猫耳つけてくれへんやろか、ほら、今日ハロウィンやん?」

「えー…柔兄がそんな廉造みたいなこと言うとは…」

「西洋かぶれとかもうええねん、そないなことより大事なことがあるんや」

「柔兄の言う通りやで。あとこの尻尾も頼む」


2人はやたらキリッとして言った。金造は懐から黒い尻尾を出してきて、明斗はこの兄たちは何を言っているんだろうか、と少し心配になった。
だが仮装のようなものと思えば、まあ季節柄適切ではある。特に断る必要もないので、明斗はおとなしく2人から猫耳と尻尾を受け取って、それぞれ頭とベルトに装着した。


「…これでいい?」

「おおきにな!」


2人を見上げると、やはり良い笑顔で、柔造と金造はパシャパシャとスマホを連写していた。

ふと、明斗はハロウィンの趣旨を思い出した。確か、お菓子を要求するのではなかっただろうか。


「えーっと…トリックオアトリート?」

「おっ、よう知っとるやん」


明斗がテレビでやっていた合言葉のようなものを口にすると、柔造と金造は意外そうにする。そして顔を見合わせると苦笑した。


「堪忍なぁ、俺ら菓子持ってへんわ」


柔造は、金造も含め2人がお菓子を持っていないと正直に告げた。明斗がこうしてトリックオアトリートをしてくることを想定していなかったのかもしれない。
持っていないのならば、イタズラをするのだが、いかんせん何をすればいいのか分からない。


「えと、じゃあ、イタズラすればいいんだよね」

「お、せやで。イタズラしてみぃ」


楽し気な柔造に、明斗はどうするか少し迷ったが、今猫の格好をしていることに思い至る。それなら、それに即したことをしてみればいいのではないか。

明斗は柔造に一歩踏み出して近づくと、その肩に手を置いてつま先立ちになる。
そして、法衣の襟を開いて逞しい肩を露わにした。その鎖骨の上あたりの肩口に、明斗は口を寄せた。


「…にゃあ、」


一応鳴きまねをしつつ、明斗は肩にかぷりと噛みつく。甘噛み程度のものであるうえに、逞しいために口も開き切らず、本当にやわいものだ。

だが、柔造はぴしりと動きを止めた。


「じゅ、柔兄…!耐えるんや、明斗に他意はないんやさかい、手ぇ出したらしまいやで!」

「…、分かっとる。分かっとるわ…」


押し殺したように言う柔造を不思議に思いながら明斗は口を離し、元の位置に戻って2人を見上げる。柔造は目元に手を当てて天井を仰いでいた。


「柔兄のカタキや明斗…!トラックオアトレード!」

「トリックオアトリートだよ金兄、何その物流会社みたいな言葉…」


相変わらずの金造に呆れるが、そういえば明斗もお菓子の類は持っていない。これはイタズラされてしかるべきか。


「えと…俺持ってないや、イタズラする…?」

「ぐふぅ…」


どさ、と金造は心臓あたりを押さえて床に膝をついた。上目に法衣の襟もとを掴んで聞いただけなのだが、金造はなぜかダメージを食らっていた。柔造は天井を仰いでいたのが今度は床に視線を下げ、「あかん…尊さ測定器5000兆点…」と何やらよく分からないことを呟いていた。

ハロウィンの形式のひとつだろうか、と明斗は首を傾げながら、気持ち悪い2人を放ってお菓子をくれそうな八百造のところにそのままの格好で赴くことにした。そこで八百造を倒れさせ出張所が軽く混乱する、3分前のことだった。


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