バレンタイン
●柔造(25)×主(18)
不浄王編前の2月
バレンタインネタ
エイプリルフール、ハロウィンと季節のイベントをこなすようになった明斗は、バレンタインは特に何かする予定ではなかった。
この行事は恋人たちのものという認識だったからだ。
しかしあるとき、テレビを何とはなしに見ていると、案外これが友チョコだのなんだのと色々あり、日ごろの感謝を伝える、という名目まであるようだった。そういうイベントであるのであれば、やってみるのもありかもしれない、と明斗はすでに柔造を思い浮かべていた。
***
2月14日の昼、柔造はいつも通りの業務を終えて帰宅した。今日は夜勤があったので昼3時の帰宅である。
世間がバレンタインに浮かれているのはもちろん知っているが、仏教系祓魔師である柔造たちには関係のない話だった。学生時代はよくチョコをもらっており、両腕に大きな袋を抱えて大量のチョコを持ち帰ったこともあった。
憧れるように見て来た弟たちも、その処理で3月にはチョコという言葉すら受け付けなくなっていた。
正十字学園を卒業してからは、柔造もバレンタインに触れる機会をなくし、男ばかりの出張所でそのようなイベント行う者がいるはずもなく、ましてや宝生の三姉妹がそんなことをするわけがないので、久しく縁のない生活を送っていた。
一番隊の若手である柳葉魚や鳴海は「チョコ欲しいっす」とぼやいていたし、金造も「ええなぁ」と呟いていたが、それだけだった。
柔造としてはもう十分、という男たちから恨まれそうな心持ちでいた。
そうして帰宅すると、玄関にいそいそと明斗がやって来た。出迎えてくれた最愛の弟に、柔造はパッと笑顔になる。
「ただいま明斗」
「おかえり、柔兄。はい、これ」
「えっ…」
そしてそこで渡されたのは、なんとトリュフだった。透明で簡単なラッピングになったもので、可愛らしいものではなかったが、そのシンプルさが明斗らしい。
そして明斗らしいということは、まさかこれを作ったのは、と呆然と明斗を見つめる。
「こ、これ…」
「つくった」
「明斗が?」
「うん、虎子様と虎屋の厨房の人に教えてもらった。生チョコのトリュフ?ってやつ」
「明斗、料理とかできるキャラやっけ…?」
「ちゃんとしたの初めてかな」
「初めてで教わりながらとはいえこないな大層なモンを…やればできる子YDK…」
なんと明斗の手作りらしい。しかも生チョコのトリュフとはまた高度なものを作ったそうだ。教わったと言っていたが、旅館の仕事の片手間にやっていたのであろう料理人たちの簡単な指導でこれを完成させるとは、元からポテンシャルの高い優秀な祓魔師である明斗だが、改めてそのハイスペックさに驚く柔造である。
「うおお…めっちゃ嬉しいわ!おおきにな、明斗」
柔造はチョコを受け取ると、さっそく袋を開いた。一つ口に運べば、まるで既製品かのごとく絶妙な触感と香りだった。
もう十分だなんて考えていた数分前の自分はすっかり忘れた。
「うっま!!えっ、ホンマにうまいやんこれ!!」
「そっか、良かった」
安心したように笑う明斗。これは不安になる要素など1つもないレベルだ。柔造は美味しいと言いながらもう一口食べつつ、これがどんな枠で渡されたのか気になった。
「明斗、ちなみにこれ他にも渡したん?」
「うん、家族には全員分。父さんにはビターなヤツにした」
「やっぱりか…」
そこはさすがに分かっていたが、ある意味義理チョコなので柔造が内心だけで気落ちする。明斗本人に自分の気持ちを伝える気はさらさらないが、本命が良かったなんて思ってしまうのは男として仕方ないだろう。
「あ、でも」
「ん?」
「…柔兄のだけ、ちょっと多いのと、綺麗にできたヤツ柔兄に優先して入れたんだよね。内緒ね」
「っはぁ〜〜〜かわええ〜〜〜」
「わっ、」
本命とは言わなかったものの、明斗は柔造のものだけ特別視してくれたようだ。それだけで柔造は舞い上がりそうになるし、可愛さに思わず抱き締めた。玄関なのでいつもより身長差が縮んでいる。
腕の中に抱き込んだ明斗は照れくさそうにしていて、そんなところも更に可愛い。これは今日一日明斗のことを甘やかしてやらないと、と柔造は思いながら、ようやく靴を脱ごうと思い至ったのだった。